5年以上前の夏の夜の話です。
それまで私は、幽霊やその類をしっかり認識した事はありませんでした。
ただ、何となく気味が悪い、好きじゃない場所は、曰く付き、という様に何となく…と言った感じです。
前にも述べた、夏の晩、時間ははっきりとしていませんが深夜です。
何となくふと目が覚めました。
寝返りをうった瞬間に金縛りにあいました。
まるで、大きいサランラップで全身を押さえ付けられる様な強い力に驚き、そのままうつ伏せになりました。
これが金縛りかぁ。脳味噌が寝ぼけてるとなるんだっけ?
等と信じられないくらい呑気に考えていました。
人生初めての体験だ!と舞い上がってもいました。
そんな時、ベッドの足元の布団の角に、ズッと重いものが乗った感覚がありました。
あぁ、飼い猫が来たんだ。
そう思いました。
飼い猫は私に良く懐き、夜中でも遊びに誘って来る困ったヤツです。
同時に気付きました。
「あれ?寝る前に、部屋のドアを猫が開けられない様にしっかり閉めたよな。」
「じゃぁ、コレは何なんだ?」
身体中に恐怖が走りました。
得体の知れない「何か」は一歩一歩私の頭に近づいて来ます。
布団に乗る重さは人より軽いのです。
犬?猫?何?パニックになりながら思い当たるものがないか考えますが、動物好きの私には何もありません。
そうこうしている間に背中にひとつ手が乗りました。
ズッと石の様に重く鈍い痛みもありました。
その瞬間、狐だ。と何故か頭によぎりました。
狐は、そのまま私の耳元に口元を寄せました。
耳は、ザーッとまるでチューニングの合わないラジオの様に煩く、その奥に何か声が聞こえます。
何か言っています。
聞きたい。
何を言っているんだろう?
でも、理性が警鐘を鳴らしています。
聞いたら最後だと。
ごめんなさい。私には何もできません。ごめんなさい。許してください。
何度も頭の中で繰り返しました。
すると口元はスッと離れ、背中の手も離れ、一歩一歩元来た道を下がっていきました。
狐がベッドからスッと降りると、金縛りがフッと解け、解放されました。
そのまま怖くて頭まで夏掛けを被って震えていたら、いつのまにか寝てしまいました。
朝、ドアを見ると、キッチリ閉まっていました。
そのまま半泣きで家族に話しましたが、誰も信じてくれません。
あれは一体何だったのでしょうか。