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【怖い話、長編】ネットで話題騒然「危険な好奇心」※朗読動画有り

※動画バージョン

小学生の頃、

学校の裏山の奥地に俺達は秘密基地を造っていた。

秘密基地と言っても、結構本格的で、
複数の板を釘で打ち付け、
雨風を防げる3畳ほどの広さのある小屋。

放課後に、そこでおやつを食べたり、
エロ本を読んだりと、
まるで自分たちの部屋のように使っていた。

俺と慎(しん)と淳(あつし)と、
野良犬二匹でそこを使っていた。

小学5年の夏休み、
俺たちは秘密基地に泊まって遊ぶことになった。

それぞれ親には、
友達の家に泊まる、と嘘をつき、
小遣いをかき集め、おやつ、花火、飲み物を買い、
俺達3人は、修学旅行よりもワクワクしていた。

俺達は夕方の5時頃に学校で集合し、裏山へと向かった。

山に入ってから一時間ほど登ると、
俺達の秘密基地がある。

基地の周りには、
2匹の野良犬、ハッピーとタッチが住み着いていて、

基地に近くなると、どこからともなく、
2匹が尻尾を振りながら迎えに来てくれる。

俺達は2匹に「出迎えご苦労。」と頭を撫で、
うまい棒を1本ずつあげた。

基地に着くと、
持ってきた荷物を小屋に入れ、
まだ空が明るかったので、
俺達はすぐそばにある、大きな池で釣りをした。

釣りをしていると、
徐々に辺りが暗くなりだしたので、
俺達は花火をやることにした。

結構買い込んだつもりだったが、
所詮は小学生の小遣い。

30分もしないうちに花火も尽きてしまい、
俺達は一旦小屋に入った。

夜の秘密基地は皆、初めてのことで、
山の奥地ということもあり、街灯もなく、月明りのみ。

聞こえるのは虫の鳴き声だけ。

懐中電灯一本の、薄明るい小屋に三人。

最初は皆で、おかしを食べながら、
好きな子の話や先生の悪口などで盛り上がっていたが、
静まり返った小屋の周囲から、

時折聞こえてくる、
「ドボン」(池に何かが落ちてる音)や、
「ザザッ!」(何かの動物?の足音?)、
に俺達は段々と恐くなって来た。

時刻は9時。

小屋の中は蒸し暑く、蚊もいて、眠れるような状況では無かった。

それよりも、
山の持つ独特の雰囲気に俺達は飲まれてしまい、
皆、来た事を後悔していた。

明日の朝まで、どうやって乗り切るか、俺達は話し合った。

結局、小屋の中は蒸し暑く、居心地も悪いうえ、
とても一晩を過ごせる環境でなかったため、
山を下りる事になった。

懐中電灯の明かりを頼りに、足元を照らしながら、
少し早歩きで下山をする俺達。

最初は、野良犬の二匹も、
俺達の周りを、走り回っていたので心強かったが、
少しすると2匹は小屋の方へと戻っていった。

普段、何度も通っている道でも、
夜は全く別の空間にいるみたいだった。

幅30センチ程度の獣道で、
足を滑らさないよう、皆無言で黙々と歩いていた。

そのとき、
慎が俺の肩を後ろから掴み、
「誰かいるぞ!」、と小声で言ってきた。

俺達は瞬間的にその場に伏せ、電灯を消した。
耳を澄ますと確かに足音が聞こえる。

『ザッ、ザッ、』

人間特有の、二本足で茂みを進む音。
その音の方を目を凝らして、その「誰か」を捜した。

俺達から20メートル程離れた所の茂みに、「誰か」は居た。

懐中電灯を片手に、
もう一方の手には長い棒のようなものを持ち、
その棒でしげみを掻き分け、山を登っているようだった。

俺たちは始め恐怖したが、
そいつが『人間』であること。

また、『一人』であることから、
それまでの恐怖心はなくなり、
俺たちの心は幼い『好奇心』で満たされていた。

俺が『あいつ、何者だろ?尾行する?』と呟くと、
二人は『もちろん』と言わんばかりの笑顔を見せた。

微かに見える、
そいつの懐中電灯の明かりと、
草を書き分ける音を頼りに、
俺達は慎重に慎重に後をつけた。

そいつは、
その後20分程、山を登り続けて立ち止まった。

俺達はその後方30メートル程の所に居たので、
そいつの性別はもちろん、様子等は全くわからない。

かすかな人影を捕らえられる程度。

そいつは立ち止まると、
背中に背負っていた荷物を下ろし、
何かゴソゴソしていた。

『あいつ一人で何をしているんだろ、クワガタでも獲りに来たのか。』
と俺は言った。

『もっと近づこうぜ。』
と慎が言う。

俺達は枯れ葉や枝を踏まぬよう、
擦り足で、身を屈ませながら、 ゆっくりと近づいた。

俺達はニヤニヤしながら近づいていった。
頭の中では、その何者かにどんな悪戯をしてやろうかと考えていたからだ。

その時・・・・

『コン。』

甲高い音が鳴り響いた。
その瞬間、心臓が止まるかと思った俺達。

『コン。』

また鳴った。

一瞬何が起きたか解らず、淳と慎の方を振り返った。

すると淳が指をさし
「あいつや、あいつ、なにかしてる。』
と言い、俺たちは目を細めそいつが何をしているのか、観察した。

『コン、コン、コン。』

何かを木に打ち付けていた。

いや。
手元は見えなかったが、
それが【呪いの儀式】ということは、すぐにわかった。

と言うのも、
この山は昔から【藁人形】に纏わる話がある。

あくまで都市伝説的な噂だと、
その時までは思っていた。

俺は恐くなり、『逃げよ。』と言ったが、慎が
『あいつ、女だぞ。よく見てみ。』と小声で言い出し、淳が
『どんな顔か見たいな、もっと近くで見ないか。』
と悪ノリを始め、慎と淳はどんどんとそいつに近寄りだした。

俺は早くその場を離れたかったが、
へたれ扱いされるのも嫌で、渋々、二人の後を追った。

その女との距離が縮まるたびに、
『コン、コン。』
という音とは、違うものが聞こえてくるようになった。

それは、音ではなく、
女が、お経のようなものを唱えている声だった。

少し迂回して、
俺達はその女の斜め後方の木の陰に身を隠した。

その女は、肩に少し掛かるぐらいの髪の長さで、痩せ型。
足元に背負って来たリュックと懐中電灯を置き、
写真のような物に次々と釘を打ち込んでいた。

すでに7本ほど釘が打ち込まれていた。

その時・・・・

『ワン。』

俺達はドキッとして振り返った。

そこにはハッピーとタッチが、
「なにしてるの?」と言わんばかりの顔で、
尻尾を振っていた。

次の瞬間、慎が

『わ゛ぁー!!』

と変な大声を出しながら走り出した。

振り返ると、
鬼の形相をした女が、
片手に金づちを持ち、

『ア゛ーッ!!』と、
奇声を上げ、こちらに走って来ていた。

俺と淳も、
すぐさま立ち上がり、慎の後を追いかけるように走った。

…が、
俺は女に、左肩を後ろから鷲づかみにされ、
すごい力で後ろに引っ張られ、転んでしまった。

仰向きに転がった俺の胸に、
『ドスっ』という衝撃が走り、
俺はゲロを吐きかけた。

何が起きたか一瞬解らなかったが、
転んだ俺の胸を女が足で踏み付け、
俺は下から女を見上げる形になっていた。

女は歯を食いしばり、
見せ付けるように歯軋りをしながら、
『ンッ~ッ』と何とも形容しがたい声を出しながら、
俺の胸を踏んでいる足を左右にグリグリと動かした。

痛みは無かった。
ただただ恐怖で、痛みは感じなかった。

女が小刻みに震えているのが解った。
恐らく興奮状態だったのだろう。

俺は女から目が離せなかった。
目を離した瞬間、頭を金づちで殴られると思ったからだ。

そんな状況でも、
いや、そんな状況だったからだろうか、
女の顔はハッキリと覚えている。

年齢は40歳ぐらいだろうか。

少し痩せた顔立ち、
目を剥き、歯を食いしばり、
小刻みに震えながら俺を見下していた。

そこから、どれぐらいの時間が経ったか分からないが、
女が俺の事を踏み付けながら、背を曲げ、顔を少しずつ近づけて来た。

その時…。

タッチが女の背中に乗り掛かった。

女は一瞬焦り、
俺を押さえていた足を踏み外し、よろめいた。

そこにハッピーも走って来て、女にジャレついた。

恐らく、2匹は俺達が普段遊んでいるから、
人間に警戒心が無いのだろう。

俺はその隙に、一目散に起きて走りだした。

『早く、早く。』と、離れたところから、
慎と淳がこちらを懐中電灯で照らしていた。

俺は明かりに向かい走った。

『ドスっ。』

後ろで鈍い音がしたが、
俺には振り返る余裕も無く走り続けた。

俺達3人が山を下りた時には、
既に時刻は夜中の12時を回っていた。

足音は聞こえなかったが、
あの女が追い掛けてきそうで俺達は慎の家まで走って帰った。

慎の家に付き、俺は何故か笑いが込み上げて来た。

極度の緊張から解き放たれたからだろうか。
しかし、淳は泣き出した。

俺は、
『あの秘密基地には、もう二度と行けないな。
あの女が、俺達を探してるかもしれないし。』
と言うと、淳は泣きながら、

『バカ、朝になって明るくなったら行かないとダメだろ。』
と言い出した。

俺が不思議な顔をしていると、慎が俺に、
「お前があの女から逃げられたのは、
ハッピーとタッチのおかげだ。
お前があの女に後ろから殴られそうなところを、
ハッピーが飛び付いて、身代わりになったんだ。』

すると淳も泣きながら
「あの女、タッチの事も、タッチも・・・うっ・。」
と号泣し始めた。

後から慎に聞くと、
走り出した俺を後から殴ろうとしたとき、
ハッピーが女に飛び付き、頭を金づちで殴られ。

それでも女は、
俺を追い掛けようとしたが、
足元にタッチがジャレついてきて、
タッチの頭を金づちで殴ったらしい。

そして女は、
一度、俺達の方を見たが、
追い掛けることを諦めたのか、
その後は、ひたすら2匹を殴り続けていたそうだ。

それを後目に、俺達はひたすら逃げた。

俺達3人は、明日、もう一度山に入ることを決めた。
翌朝・・・・
興奮の為、明け方まで眠れず、
朝から昼前まで仮眠を取り、俺達は山に向かった。

皆、あの「女」に備え、
それぞれ、野球のバットやエアガンを持参した。

山の入口に着いた俺達だったが、
女と不用意に遭遇することを避けるため、
いつもとは違うルートで山に入った。

昼間は山の中も明るく、
蝉の泣き声が響き渡り、
昨夜の出来事など嘘のような雰囲気。

だが、女に出くわした地点に近づくに連れ、
緊張が走り、俺達は無言になり、足取りも重くなった。
バットを握る手は緊張で汗まみれだ。

例の木が見えた。
女が何かを打ち付けていた木だ。
少し近づいて俺達は言葉を失った。

木には、
5歳ぐらいに見える小さな女の子の写真に、
無数の釘が打ち付けられていた。

それも衝撃的な出来事だったかもしれないが、
俺達が驚いたのはそれではない。

その木の根元に、
ハッピーの変わり果てた姿があったからだ。

舌を垂らし、体中血まみれ、
眉間には一本。

釘が刺さっていた。

俺達は絶句し、近づいて凝視することが出来なかった。

蝿や、見たことの無い虫がたかっていて、
生物の『死』の意味を俺達は始めて体感した。

俺はハッピーの変わり果てた姿を見て、
恐怖心が増してきた。

もし、次に女に会えば、
俺もこうなってしまうのか。

すぐにでも家に帰りたくなった。

その時、淳が
「タッチ、タッチの死体が無い。タッチは生きているかも。』
と言い出した。

すると慎も
『きっとタッチは逃げのびたんだ、きっと基地にいるはず。』
とそれに応えた。

俺達3人は、
すぐさま秘密基地へと走り出した。

秘密基地が見える場所まで走ってきた時に、
慎が急に立ち止まった。

俺と淳は『あの女か、』と思い、慌てて身を伏せた。

恐る恐る、慎の顔を見上げると、
慎は『なんだあれ?』と、基地を指差した。

俺と淳はゆっくり立ち上がり、基地を眺めた。

何か基地に違和感があった。何か・・・

基地の屋根に何か付いている。

少しずつ近づいていくと、
基地の中に昨夜、置き忘れていた淳の巾着袋が、
基地の屋根に無数の釘で打ち付けられていた。

「この秘密基地が、あの女にバレたんだ。」

慎が恐る恐る、
バットを握り締めながら基地に近づいた。

俺と淳は少し後方でエアーガンを構えた。
基地の中に女がいるかもしれない。

慎はゆっくりとドアに手を掛けると同時に、
すばやく扉を引き開けた。

『うわっ!』

慎は何かに驚き、
その場に尻餅を付きながら、
ズルズルと俺達の元に後ずさりをしてきた。

俺と淳は何に慎が怯えているのか解らず、
身構えながら基地の中をゆっくりと覗いた。

そこには変わり果てたタッチの死体があった。

『うわっ!』

俺と淳も慎と同じような反応をとった。
やはりタッチも眉間に五寸釘が打ち込まれていた。

俺はその時、思った。

あの女は変態だ、いや、狂っている。
普通の人間は、こんなことをしない。

とてつもない人間に関わってしまったと、
昨夜、この山に来た事を心から後悔した俺達。

しばらく三人とも、
タッチの死体を見ながら呆然としていたが、
慎が小屋の中を指差した。

『おい、あれ。』

俺と淳は黙りながら、
静かに慎が指差す方向を覗き込んだ。

タッチの死体で気付かなかったが、
基地の床板に、何かが彫られていた。

近づいてよく見てみると・・・・

『淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺
淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺淳呪殺』

床板に「淳・呪・殺」と、無数に彫られていた。

淳は目が点になり、固まっていた。
なぜ名前がバレたのか。

その時、慎が、
『淳の巾着袋だ、巾着袋に名前が書いてあったんだよ。』

すぐさま俺は、
屋根に打ち付けられていた巾着袋に目をった。

するとそこには、
「5年三組〇〇敦」と書かれてあった。

淳は泣き出した。
俺も慎も泣きそうだった。

学年と組、名前があの女にバレてしまったのだ。
もう逃げられない。俺や慎の事もすぐにバレてしまう。
頭が真っ白になった。

俺達はみんな、
ハッピーやタッチのように殺される。

慎が言った、
「警察に言おう。もうダメだ、逃げられないよ。」

俺はパニックになり、
「警察に言ったら、秘密基地の事とか、
昨日の夜、嘘付いてここに来た事バレて親に怒られるだろ。」
と冷静さに欠いた事を言った。

いや、当時は何よりも、
親に怒られるのが一番恐いと思っていたのだ。

その間も、淳はずっと泣いたまま。
俺たちは何も掛ける言葉が見つからなかった。

淳は無言で打ち付けられた巾着を引きちぎり、
ポケットにねじ込んだ。

俺達は会話が無くなり、とりあえず山を降りた。
淳は泣いたままだった。

俺は今もどこからか、
あの女に見られている気がしてびくびくしていた。

山を降りると慎が、
「もう、この山に来るのはやめよう。
近づかなかったら、あの女も俺達の事を忘れるだろ。』
と言った。

俺は、
「そうだな。で、この事は俺らだけの秘密にしよう。
誰かに言ってるのがあいつにバレたら、
俺達も殺されるかもしれないから。』

慎は頷いたが、
淳は相変わらず、泣きながら腕で涙を拭っていた。

その日は、各自、家に帰り、
その後、その夏休みの間、三人で会うことは無かった。
そして、あれから2週間が経ち、新学期が始まった。
しかし、その初日、敦は学校に来なかった。

慎と二人、嫌なことが頭をよぎり、
学校帰りに二人で淳の家を訪ねた。

家の呼び鈴を押すと、
明るい声で『はぁーい!』と淳の母親が出て来た。

俺が『淳は?』と聞くと、
おばさんは、
『わざわざお見舞いありがとね。
あの子、部屋にいるから上がって。』
と言われ、俺と慎は淳の部屋に向かった。

『淳、入るぞ。』と淳の部屋に入ると、
淳はベットで横になりながら漫画を読んでいた。

平気そうな姿を見て俺と慎は少し安心した。

俺と慎が、
「何で今日休んだんだ、心配したぞ。」
と詰め寄ると、淳は無言のまま漫画を閉じ、俯いていた。

そこにおばさんが菓子とジュースを持ってきて、
『この子、10日ぐらい前からずっと蕁麻疹が引かないのよ。
『おかしの食べ過ぎじゃないかしら。』
と、笑いながら話、部屋を出ていった。

俺と慎は笑い、
「何だよ、脅かすなよ、蕁麻疹かよ。拾い食いでもしたんだろ。』
とおどけてみせたが、その間も、淳は無言のまま俯いていた。

慎が、『おい、淳どうした。』
と、問い詰めると、淳は無言でTシャツを脱いだ。

体中に赤い斑点があり、確かに蕁麻疹だった。

俺が、
『蕁麻疹なんか、薬塗ってたら治るだろと。』と言うと、

淳が、
『これは、あの女の呪いだ。』と、
言いながら背中を見せて来た。

確かに背中にも無数の蕁麻疹があったが、
あの女との関係が分からなかった俺達は、
「もう、あの女のことは忘れろ。」と、敦に言った。

すると、淳は、
「右の脇腹を見てくれ。」と、少し声を荒げながら、
俺達に脇腹を見せてきた。

見てみると、
確かに蕁麻疹が一番酷い場所だったが、
それでも、『呪い』と結び付ける理由が解らなかった。

すると淳が、
『これ、よく見ろよ。顔にしか見えないだろ。』

よくよく確認すると、
確かに女の顔に、見えなくもなかった。

しかし、俺と慎が、
『気にしすぎだろ、たしかに顔に見えないことも無いけど。」
と、言うと敦は、
「どー見ても顔だろ、やっぱり俺は呪われているんだ。』
と言った。

俺と慎は淳に掛ける言葉が見つからなかった。
と言うより淳の雰囲気に圧倒された。

いつもは温厚で優しい淳が、少し病んでいる。

青白い顔に覇気のない目、
きっと精神的に追い詰められているのだろう。

俺と慎は急に淳の家に居づらくなり、
帰ることにした。

帰り道、俺は慎に、
「あれ、どー思う、やっぱり呪いなのかな。』と聞いた。

慎は『この世に呪いなんかないよ。』と言った。

なぜかその言葉に俺が勇気づけられた。

それから3日が過ぎたが、
依然、淳は学校には来なかった。

俺も慎も淳に電話がしづらく、
淳の様子は解らなかった。

ただクラスの先生が、
『風疹でしばらく休み。』
と言っていたので少し安心していた。

しかし、この頃から学校で奇妙な噂が流れ始めた。

学校の通学路に、
トレンチコートにサンダル履きのオバさんが、
学童を一人一人睨むように顔を凝視してくる、
という噂だ。

その噂を聞いた放課後、俺は激しく動揺した。

間違いない、あの女だ。

しかも、俺は唯一、間近で顔を見られている。

慎に相談すると、慎は、
「大丈夫、夜だったし、見えてないって。
それにあの日見られてたとしても、忘れてるって。』
と、俺を落ち着かせる為なのか、意外と冷静だった。

何よりも嫌だったのが、
俺と慎は通学路が全くの正反対。

俺と淳は近所なのだが、淳が休んでいる為、
俺は一人で帰らなければいけない。

俺は慎に、
「しばらく一緒に帰ろうよ、俺、恐い。」
と慎に頼んだ。

慎は少し呆れた顔をしていたが、
「淳が来るまでだぞ。」
と言ってくれた。

その日は、学校で噂の『トレンチコート女』には会わなかった。

次の日も、その次の日も会わなかった。

しかし、学校では相変わらず、
【トレンチコートの女】の噂は囁かれていた。

慎と一緒に下校することになり五日目、
俺達は久しぶりに淳の見舞いに行くことにした。

お土産に給食のデザートのオレンジゼリーを持って行った。

淳の家に着き、チャイムを押した。

いつもの様に、
おばさんが明るく俺達を迎えてくれた。

淳は相変わらず元気が無かった。

蕁麻疹は大分消えていたが、淳は、
「横腹の顔の部分が日に日に大きくなっている。」
と言っていた。

俺と慎にはむしろ、
前回見たときよりはマシになっているように見えたが、
淳は精神的にショックを受けていたのだろう。

俺達は学校で騒がれている、
『トレンチコートの女』の噂は、淳には言わなかった。

帰り間際に淳の叔母さんが俺達の後を追い掛けて来て、
『淳、クラスでイジメにでも遭っているの?』と、
不安げな顔で聞いて来た。

俺達は否定したが、
本当の理由を言えないことに少し罪悪感を感じた。

それから三日後。

その日は珍しく、
俺と慎に、内藤と佐々木も加わり、
四人で一緒に下校した。

内藤は体がデカく、佐々木はチビ。

実写版のジャイアンとスネオみたいな奴ら。

もう俺と慎の中で、
『あの女』の事は風化しつつあった。

学校で噂の『トレンチコート女』が実在していたとしても、
俺達が見たあの女とは別人だとすら思えて来ていた。

その日は四人で、
駅前でがちゃがちゃをしに行こうと言う話になり、
いつもと違う道を歩いていた。

これが間違いだった。

楽しく四人で話しながら歩いていると、
佐々木が『あ、あれトレンチコート女じゃない?』
内藤も、『うわ、本当だ、きも。』と言い出した。

俺は心の中で「あの女とは別人であってくれ」と願った。

その女はスーパーの袋を片手に持ち、
まだ残暑の残るアスファルトの道で、ただ突っ立っていた。

うつむいて顔が良く解らない。

慎は警戒しているのか、
小声で俺達に、『目を合わせるなよ。』と言ってきた。

少しずつ女との距離が縮まっていく。
緊張が走った。

女は微動たりせず、ただ、うつむいていた。

距離が5メートル程になったとき、
女は突然顔を上げ、俺達四人の顔をじろじろと見てきた。

次に、俺達の胸元に目線を送って来ているのが分かった。

名札を確認している。
俺は焦り、平常心を保つのに必死だった。

心臓が口から出そうになりながら、
その女の顔を確認すると・・・・

間違いない。『あの女』だ。
俺はうつむきながら歩き過ぎた。

俺はいつ襲い掛かられるかと、びくびくしていた。

どれくらい時が過ぎただろう。
多分、ほんの数秒だったのだが、永遠に感じた。

そして、その女とすれ違い、
少し距離が開いたところで内藤が、
『あの目見たか、あれ完全にイッテるぜ。』と笑った。

佐々木も、『この糞暑いのにあの格好、ぷっ。』
と馬鹿にしていた。

俺と慎は笑えなかった。
佐々木が続けて言った。

『やべ、聞こえたかな、まだ見てやがる!』
俺はとっさに振り返った。

その女と目が合った。

まるで蝋人形のように無表情だった『その女』の顔が、
ニヤっと、凄くイヤらしい微笑みに変わった。

背筋が凍るとはこの事か。

俺は生まれて始めて恐怖によって少し小便を漏らした。

バレたのか、
俺の顔を思い出したのか、
バレたなら何故襲って来ないのか。

俺の頭はひたすらその事だけがぐるぐる巡っていた。

内藤が、
「うわ、まだこっち見てるよ。
佐々木、お前の言った悪口が聞かれたんじゃねぇの、
俺知らねっ。』とおどけていた。

もう、がちゃがちゃどころではない。

曲がり角を曲がり、
女が見えなくなった所で、俺は慎の腕を掴み、
『帰ろう。』と言った。

慎は俺の目をしばらく見つめ、
『あ、今日塾だっけ、帰らないとダメだな。』
と、俺に合わせ、俺達はその場を走り去った。

家とは逆の方向に走り、
しばらくして俺は慎に、
「あいつだ、あの女だ。
あの目、間違いない。俺達を探しに来たんだ。』

慎は意外と冷静に、
「マジマジと名札見てたもんな。
淳は学年とクラス、名前までバレてるし。』
と、言った。

俺はそんな落ち着き払った慎に腹がたち、
「どーすんだよ、もう逃げ切れねーよ、家とかそのうちバレるぞ。』
と、強く当たった。

その様子に押されたのか、慎も、
「やっぱり、警察に言おう。このままではダメだ、
助けてもらうしかない。』
と、言ってきた。

しばらく俺は黙り込み、
「でも、警察になんて言えば良いのかな。」
と、慎に問うと、

「山だよ。あの山に打ち付けられた写真とか、
ハッピーやタッチの死体、あれを写真に撮って、
あの女が変質者って言う証拠を見せれば、
警察があの女を捕まえてくれるはずだ。』

あの山に行くのだけは嫌だったが、仕方が無かった。

さっそく、明日の放課後、
二人であの山へと行く事になった。

話もまとまり、
俺達は家に帰ろうとしたが、
「あの女」が何処で見張っているか分からないため、
俺達は、家路まで遠回りをして帰った。

普通なら20分で帰れるところを二時間かけて帰った俺は、
家に着くと、すに慎に電話をした。

「家とかバレてないかな、今夜来たらどーしよ。」
などなど、一方的にまくし立て、
自分がこんなにチキンだとは思わなかった。

慎は『大丈夫、そんなすぐにバレないよ!』
と俺に言ってくれた。

この時俺は思った。

普段は対等に話しているつもりだったが、
慎はまるで俺の兄のような存在だと。

もちろんその日の夜は眠れなかった。

わずかな物音に脅え、
目を閉じれば、あのニヤッと笑う女の顔が、
まぶたの裏に焼き付いていた。
そして翌日・・・・
いつものように学校に行き、
学校が終わった後。

俺と慎は、あの山の入り口へと訪れた。
俺は山に入るのを躊躇した。

入口に立つだけで、
鮮明に『あの夜の出来事』が甦ってくる。

俺は慎の様子を伺った。
慎は黙って山を見つめていた。
慎も恐いのだろう。

慎はズボンのポケットから、
インスタントカメラを取り出し、
右手に握ると、「よし。」と小さく呟き、
山へと向かい走りだした。

俺もそれに引っ張られるように走りだした。

慎は振り返らずに走り続ける。
俺は必死に慎を追った。

一人になるのが恐かったから必死で追った。

今思えば慎も恐かったのだろう。
恐いからこそ、周りを見ずに一目散に走ったのだろう。

「あの場所」が 徐々に近づいてくる。

思い出したくもないのに、
『あの夜』の出来事を鮮明に思いだし、
心に『恐怖』が広がりだした。

恐怖で足がすくみだした時、
『あの場所』に着いた。

あの女と出会ってしまった場所。

俺は急に誰かに見られているような気がして周りを見渡した。

いや、『誰かに』では無い、
中年女に見られているような気がした。

山特有の『静寂』と、
自分自身の心に広がった『恐怖』がシンクロし、足が震えだす。

立ち止まる俺を気にかける様子も無く、
慎はあの木に近づきだした。

何かに気付き、慎はしゃがみ込んだ。

「ハッピー・・・。」

その言葉に俺は、
足の震えを忘れ、慎の元に歩み寄った。

ハッピーは、既に土の一部になりつつあった。

頭蓋骨をあらわにし、
その中心に少し錆びた釘が刺さったままだった。

俺は釘を抜いてやろうとすると、
慎が「待て。」と言い、写真を一枚撮った。

慎の冷静さに少し驚いたが、
何も言わず俺は再び釘を抜こうとした。

頭蓋骨に突き刺さった釘をつまんだ瞬間、
頭蓋骨の中から、見たことの無い多数の虫が、
ザザッと一斉に出てきた。

『うわっ!』

俺は慌てて手を引っ込め、立ち上がった。

ウジャウジャと湧いている小さな虫が怖く、
ハッピーの死体に近づく事が出来なくなった。

それどころか、
吐き気が襲って来て、えずいた。
慎は何も言わずに背中を摩ってくれた。

俺はあの夜、
ハッピーとタッチを見殺しにした。
俺は最高に弱く、最低な人間だ。

慎はカメラを再び構え、
「あの木」を撮ろうとしていた。

「ん、おい、ちょっと来てくれ。」
何かを発見し、俺を呼ぶ慎。

俺は恐る恐る慎の元に歩み寄った。

慎が、「これ、この前無かったよな?」と、何かを指差す。

その先に視線をやると、
無数に釘の刺さった写真があった。

「写真は確か、前にもあったはず、」
と思い、まじまじと見てみると…。

「あ、写真が違う。」

厳密に言うと、
この前見た写真に加え、
別の写真が増えていたのだ。

写真の状態からして、
ここ数日ぐらいに打ち込まれていたと思われる。

この前に見た写真は、
既に女の子かどうかもわからないぐらい、
雨風で表面がボロボロになっている。

新しい写真も、
5歳ぐらいの女の子のようだ。

慎はカメラにその写真を収めた。

そして、
「あとは、秘密基地の中を撮ろう。」
と言い、再び走りだした。

俺は近くに、
あの女がいるような錯覚がし、
一人になるのが怖く、慌てて慎を追った。

徐々に秘密基地へと近いた時、
俺は違和感を感じ、慎を呼び止めた。

いつもなら、
秘密基地へと向かうこの場所から、
屋根が見える位置はずなのに、その屋根が見えない。

慎もすぐに気付いたようだ。

このとき脳裏に『あの女』がよぎった。

胸騒ぎがする。
鼓動が激しくなる。

慎が、「裏道から行こう。」と言った。
俺は無言で頷いた。

裏道とは、
獣道を通って秘密基地に行く従来のルートとは別に、
茂みの中をくぐりながら秘密基地の裏側に到達するルートの事だ。

この道は、万が一秘密基地に、
敵が襲って来た時の為に作っておいた道。

もちろん、遊びで造っていたのだが、
まさかこんな形で役に立つとは。

この道なら、基地に『あの女』がいても、
見つかる可能性は極めて低い。

俺と慎は四つん這いになり、
茂みの中のトンネルを少しずつ進んだ。

そして、秘密基地の裏側、
約5メートル程の位置にさしかかった時、
基地の異変の理由が分かった。

バラバラに壊されていたのだ。
俺達が造り上げた秘密基地はただの木材になっていた。

しばらく様子を伺ったが、
あの女の気配もないので俺達は茂みから抜けだし、
秘密基地の『跡地』に到達した。

俺達はバラバラに崩壊された秘密基地を見て、
少しだけ泣きそうになった。

この場所は言うならば、
俺達三人と2匹のもう一つの家。

感慨に浸っている俺を横目に、
慎が無言で写真を撮りだした。

そして数枚の材木をめくり、
『淳呪殺』と彫られた板を表にし、写真を撮った。

その時、
わずかな板の隙間からハエが飛び出し、
その隙間からタッチの亡骸が見えた。

ハッピーとタッチ。
かけがえの無い2匹を失ったことを改めて痛感した俺達。

慎は立ち上がり、
「よし、このカメラを早く現像して警察に持って行こう。」
と言った。

俺達は山を駆け降りた。
山を降り、俺達は駅前の交番へ急いだ。

「このカメラに納められた写真を見せれば、
あの女は捕まるはずだし、それで俺らは助かる。」
その一心だけで走った。

途中でカメラ屋に寄り、現像を依頼。

出来上がりは30分後と言われたので、
俺達は店内で待たせてもらった。

その間、慎との会話はほとんど無かった。

ただただ 写真の出来上がりが待ち遠しかった。

『お待たせしました。』
バイトらしき女店員に声をかけられた。

俺と慎は待ってましたとばかりにレジに向かった。

女店員は少し怪訝そうな顔をしながら
「現像が出来ましたので、中の確認をよろしくお願いします。」
と、言いながら写真の入った封筒を差し出した。

まぁ現像後の写真が、
犬の死骸や釘に刺された少女の写真のみだから、
そんな顔をするのも当然だが。

慎はその場で封筒から写真を取り出し、
すべての写真を確認。

「大丈夫です。ありがとうございました。」
と言い、代金を支払った。

店を出て、すぐさま交番へ向かった。

これで全てが終わる。
俺たちは、駅前の交番へ飛び込んだ。

「ん、どうした。」
中にいた若い警官が笑顔で俺達を迎えてくれた。

俺達はその警官の元に歩み寄り
「助けてください。」と言った。

俺と慎は『あの夜』の出来事を話した。

その証拠を裏付ける写真も、
一枚一枚見せながら説明した。

そして、今も『中年女』に狙われている事も。

一通り話し終えると、
その警官は穏やかな表情で、
「お父さんやお母さんに言ったの。」
と俺達に語り掛けてきた。

俺たちは、親には伝えていないと言うと、
『なら、家の電話番号を教えてくれるかな。』
と、その警官は言い出した。

慎が、
「なんで親が関係あるの、狙われているのは俺達だよ?」
と、少し怒り気味に言い放った。

ちなみに慎の両親は医者と看護婦。
高校生の兄貴は某有名私立高校生。

俺達3人の中で一番裕福な家庭だが、
一番厳しい家庭でもある。

『あの夜』親に嘘をついて秘密基地に行き、
このような事に巻き込まれた、などバレれば、
俺や淳もだが、慎が一番洒落にならないのだ。

「助けてよ、警察でしょ。』
と慎が詰め寄る。

警官は少し苦笑いして、
「君達小学生だよね。
やっぱり、こーゆー事は、
キチンと親に言わなきゃダメだよ。』
と、しばらくイタチゴッコが続いた。

あげくに警官は、
「じゃあ君達の担任の先生は何て名前。」
ろ、俺達にとっては《脅し》にも取れる言葉を投げ掛けてきた。

警官にとっては俺達の
『保護者及び責任者』から話を聞かないとって感じだったのだろうが、
俺達にとって、こういう時の『親・先生』は、
怒られる対象にしか考えられなかった。

そうこうしているうちに俺達の心の中に、
目の前にいる 警官に対して《不信感》が芽生えてきた。

このまま此処にいれば、
無理矢理住所を言わされ、親にチクられる、と俺は思い始めた。

俺や慎が必死に助けを求めているのに、
『親』や『先生』について聞いてくるばかり。

俺達は『あの女』の存在を
裏付ける証拠写真まで持参しているのに。。

俺はもう一度警官に写真を見せつけ、
「犬をこんな殺し方する奴なんだよ。」と言った。

すると、警官はしばらく黙り込み、
写真を手に取り、意外な一言を言った。
「でもさ、これって本当に犬なの?」

『は?』と俺と慎は驚いた。
この人は何を言っているんだろう!と。

続けて警官は、
「いや、君達を信じていない訳じゃないよ。
じゃあもう少し詳しく教えて、ここが頭であってる?」

警官は冗談を言っている訳では無く、
本当に分かっていないようだった。

俺はハッピーの写真を取上げ、
「だから。」と、説明しかけて言葉が詰まった。

確かに、この写真を客観的に見ると、
犬の死骸には見えないかも、と思った。

薄茶色に変色した骨に、
所々わずかに残っている毛。

俺と慎はハッピーが死体になった翌日にも見ているので、
腐食が進んでいても元の形を知っているが、

知らない人が見ると、ただの汚れた石に、
汚い雑巾の様なものが絡んでいるようにしか見えないかも知れない。

俺は冷静に他の写真も見てみた。

たしかに、
『あの女』の存在に直接結び付けるのは難しいかもしれない。

ひょっとして警官は、
『小学生の悪戯』と思っていて、
先程から『親・担任』などと言っているのか。

俺はこのまま此処にいては危険だと感じ出した。
絶対、親を呼び出すつもりだ。

俺は慎に小さな声で耳打ちした。

慎は無言で頷き、
アゴをクイッと動かし、『外に出る合図』を送ってきた。

すると次の瞬間、
慎は勢いよく振り向き、走りだした。
俺もすぐさま後を追い、交番から抜け出した。

後ろから「おい。」
と、警官が呼び止める声がしたが、
俺達は振り向かずに走り続けた。

警官が追い掛けてくる気配は無かった。

警官はおそらく
「悪戯しにきた小学生が、嘘を見破られそうになり逃げ出した。」
とでも思っているのだろう。

俺と慎は警官が追って来ていないことを充分に確認し、
道端に座り込み、今後について話し合った。

俺達は途方に暮れていた。
最後の切り札の警察にも信じてもらえず、
『あの女』から身を守る術を失った。

『これで全てが解決する』
と俺達は思い込んでいただけに、
ショックはデカかった。

すると慎が、
「しばらくあの女には出くわさないように注意して。」
と言いかけたが、俺はすぐに、

「もう無理だよ。淳の学年とクラスがバレてる時点で、
すぐに俺らもバレるに決まってる。」と声を荒げた。

すると突然、慎が意外なことを言い出した。

「でもあの女。俺達に何かする気あるのかな。」

俺は一瞬言っている意味が分からなかったが、
そんな俺を横目に慎は続けた。

「だってこの前、俺ら学校帰りにあの女に出会ったじゃん。
もし何かするつもりなら、あの時でも良かった訳じゃん。」
「それに、もし俺らのことを許してないなら、
山の木に、呪いでも彫ってそうなものじゃん。』

確かに、山に行った時、
秘密基地は壊されていたが、
『俺達に対する』呪い的な物は何も無かった。

俺達だけでなく、
フルネームがバレている淳に対する、
『呪い彫り』は無かった。

俺は内心、反論したかったが、しなかった。

それは、慎の言う通り、
実は俺達が思っている程『あの女』は、
俺達の事を怨んでいない、忘れかけている。
そう、思いたかったからだ。

慎はもう一度、
「俺らを本気で怨んでいるなら、
何らかの行動を起こすはずだろ?」
と、まるで俺を安心させるかのように言った。

そして、
「学校の近くをウロついてるのも、
俺らを捜しているわけじゃなくて、
写真の女の子を捜してる可能性もあるだろ?」
と、続けた。

俺は、慎の言葉を聞いて、
少し気持ちが楽になった感じがした。

と言うか、
慎の言った言葉を自分自身に言い聞かせ、
無理矢理納得させようとした。

それは【現実逃避】に近いかもしれない。
慎も同じ気持ちだったのかも知れない。

もう『あの女』から逃げる術が見つからず、
そう、思い込みたかったのかも知れない。

更に俺達は、

「そーだよな。そのうち俺らのことなんて忘れるよな。」
「いやいや、既に忘れてるまであるぞ。」
「んだよちくしょー、ビビって損したぜ。』
「ほんまに、あの女、泣かしたろか。」

と、お互い強がって見せた。
もはや、やけくそに近いかもしれない。

しばらくその場で、
慎と『あの女』の悪口などで談笑していると、
辺りは薄暗くなり始め、俺達は帰宅することにした。

慎と別れる道に差し掛かり、
「明日の帰り、淳の様子見に行こうぜ。」
「おう、そうだな。」
とお互い明るく振る舞って手を振り別れた。

俺の心は少し晴れやかになっていた。

「そーだよな。
慎の言う通り、あの女はもう俺達の事なんて忘れてるよな。』

まるで自己暗示のように繰り返し言い聞かせた。
足取りも軽く、石を蹴りながら家に向かった。

空を見上げると雲も無く、
無数の星がキラキラ輝き、
とても清々しい夜空だった。

今まで『あの女』の事で、
うじうじ悩んでいたのが馬鹿らしく思えて来た。

自宅に近づき、
その日は見たいアニメがあることを思い出し、
俺は小走りで家に向かった。

「「「「「「「走る音」」」」」」」」」」

夜の町内に俺の足跡が響く。

「「「「走る音」」」」」

静かな夜だった。

「「「「走る音」」」」」

んんん?

「「「「走る音」」」」

俺の足音以外に、違う足音が聞こえる。

後ろを振り向いた。

暗くて見えないが誰もいない。
気のせいか。

なんだかんだ、
俺はやっぱり小心者だなと思いながら再び走った。

「「「「走る音」」」」」

やっぱり、誰かいる。

俺はもう一度立ち止まり、
目を凝らして後ろを眺めた。

やっぱり、誰もいない。

確かに俺の足音にマジって、
後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたはず。

俺も淳のように、
自分でも気付かないうちに精神的に、
『あの女』追い詰められていたのかな。

しばらく立ち止まり、
ボーっと後ろを眺めた。

ドクンドクンと鼓動を打っていた心臓が、
一瞬止まりかけた。

10メートルぐらい後方、
民家の玄関先に停めてある原付きバイクの陰に、
誰かがしゃがんでいる。

いや、隠れている。

月明かりではっきりとは見えないが、
一つだけハッキリと見えていることがある。

そいつが、コートを身に纏っているということ。

『あの女だ、あの女だ、あの女だ、あの女だ。。。』

腰が抜けそうになったが、
本能だったのだと思う。次の瞬間、

俺は何も考えず、一気に駆け出した。
運動会の時より必死に走った。

もう風を切る音以外、何も聞こえない程、無心で走った。

家まであと10メートル。
よし、逃げ切れる。

その瞬間、頭にあることがよぎった。

このまま家に逃げ込めば、間違いなく家がバレる。

そう思った俺は、
とっさに自宅前を通過し、
そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。

当てもなく、
ただ俺の後方を着いて来ているであろう、
『あの女』を巻く為にただひたすら走った。

どれぐらい走っただろうか。
俺は、でたらめに道を走り続け、
さすがに息が切れ始め、立ち止まり後ろを振り向いた。

もう、『あの女』らしき人影も足音も聞こえて来ない。

俺は周囲を警戒しつつ、
自宅方面へ歩き始めた。

再び自宅の10メートル程手前に差し掛かり、
俺はもう一度周囲を警戒し、玄関にダッシュした。

両親が共働きで、
鍵っ子だった俺は、
すばやく玄関の鍵を開け、
中に入り、すぐに鍵を閉めた。

安堵感で自然と、溜息が漏れた。

とりあえず、このことを慎に報告しなければと思い、
部屋に上がろうと靴を脱ごうとしたその時、
「ガタガタ」
玄関先で物音がした。

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、
玄関扉を凝視した。

俺の家の玄関は、
曇りガラスにアルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、
曇りガラスの向こう側に、誰かが立っている影が映っていた。

玄関扉を挟み、1メートルの距離に『あの女』がいる。

俺は息を止め、動きを止め、気配を消した。

いや、むしろ身動きが出来なかった。

まるで金縛りにあったような状態。
曇り硝子越しに見える『あの女』の影をただ見つめるしか出来なかった。

しばらく『あの女』は、
じっと微動だにせず玄関越しに立っていた。

ここに『俺』がいることがわかっているのだろうか。

その時、硝子越しに、
『あの女』の左腕がゆっくりと動き出した。

そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、
『キシッ!』と扉が軋んだ。

俺の心臓の鼓動が早まった。

『あの女』は扉が施錠されている事を確認すると、
ゆっくりと左腕を戻し、再びその場に留まっていた。

俺は依然、硬直状態。

すると『あの女』は玄関扉に更に近づき、
その場にしゃがみ込んだ。

そして硝子に左耳をピッタリと付けた。

室内の様子を伺っている。
鮮明に、目の前の曇り硝子に『あの女』の耳が映った。

もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。

鼓動はピークに達し、心臓が破裂しそうになった。
『あの女』に鼓動音がバレる、と思う程だった。

『あの女』は二分間ぐらい、
扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、
こちら側を向いたまま、ゆっくりと、一歩ずつ後ろにさがって行った。

少しづつ硝子に映る影が薄れ、やがて消えた。

「行ったのか・・・?」

俺は全く安堵出来なかった。

姿形は見えないが、
もしかしたらまだ家の周りにいるかもしれないからだ。

もし、『あの女』に、
俺がこの家に入る姿を見られていて、
『俺の存在』を確信した上で、
さっきの行動を取っていたのだとしたら、
間違いなく家の周囲に、まだいるはず。

俺はゆっくりと、
細心の注意を払いながら靴を脱ぎ、居間に移動した。

一切、部屋の明かりは点けない。

明かりを付ければ、
『俺の存在』を知らせることになりかねない。

俺は居間に入ると、
真っ直ぐに電話の受話器を持ち、
手探りで暗記している慎の家に電話をかけた。

すぐに、慎本人が出た。

「慎か、やばい、来た。あの女が来た。バレた、バレたんだ。』
俺は小声で焦りながら慎に伝えた。

「どーした、何があった?』
と慎。

『家にあの女が来た、早く何とかして。』
俺は慎にすがった。

慎『落ち着け、家に誰もいないのか?』
俺『いない、早く助けて。』
慎『とりあえず、戸締まり確認しろ、中年女は今どこにいる?』
俺『わからない、でも家の前までさっきいたんだ。』
慎『パニクるな、とりあえず戸締まり確認だ、いいな。』
俺『わかった、戸締まりしてくるから早く来てくれ。』

俺は電話を切ると、
戸締りを確認しにまずは便所に向かった。

もちろん家の電気は一切つけず、
五感を研ぎ澄まし、暗い家内を壁づたいに便所に向かった。

まずは便所の窓をそっと音を立てず閉めた。
次は隣の風呂。
風呂の窓もゆっくり閉め、鍵をかけた。

そして風呂を出て縁側の窓を確認に向かった。

廊下を壁づたいに歩き縁側のある和室に入った。
縁側の窓を見て違和感を覚えた。

いや、いつもと変わらず、
窓は閉まってレースのカーテンをしてあるのだが、その左端。

そこに、人影が映っている。

誰かが窓の外から、
窓に顔を付け、双眼鏡を覗くように両手を目の周辺に付け、
室内を覗いている。

家の中は電気をつけていない為、
外の方が明るく、こちらからはその姿が丸見えだった。

窓に『あの女』がヤモリみたいに張り付いている。
俺は腰が抜けそうになった。

俺はとっさにしゃがみ込んだ。
全身が無意識に震えていた。

『あの女』からこちらは見えているのか?

『あの女』はしばらく室内を覗き、
そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。

そして、
『キュルキュルキュル。』
と嫌な音が窓からしてきた。

『あの女』の右手が窓を擦っている。

左手は依然、目元にあり、室内を覗いている。

『キュルキュルキュル』

嫌な音は続く、俺の恐怖心はピークに達した。

何かわからないが、
『あの女』の奇行に恐怖し、
その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。

すると『あの女』は、
咄嗟に後ろを振り返り、
凄い勢いで走り去って行った。

俺は何が起きたかわからず、
身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。

すると、窓の向こうの道路に、
赤い光がチカチカしているのが見えた。

「警察が来たんだ。」
俺は状況が飲み込めた。

偶然通りかかったパトカーに気付き、
『あの女』は逃げて行ったんだと。

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。

「「「「「プルルルルル」」」」」」」

その時、電話が突然鳴った。
もう心臓が止まりかけた。

慎の自宅からの電話だった。
俺は慌てて電話に出た。

慎『どう。』
俺『なんか部屋覗いてたけど、どっか行った。』
慎『そっか、親帰って来たのか?』
俺『いや、たまたまパトカーが通って、それにビビって逃げたんだと思う。』
慎『そーか、良かった。俺がお前の家の近くに、不審者がいるって警察に通報した。
でも、あいつに家バレたなら、そろそろ親にも相談しないとダメかもな。』
慎『俺、今日、親に言うから、お前も言えよ、もうヤバイ。』
俺『うん。』

そして電話を切った。

その30分後、母親がパートから帰って来た。

俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、
母の顔を見た瞬間、安堵感からか、泣き出した。

母親はキョトンとしていたが、
俺はしばらく泣き続けた後
『ごめんなさい。』と謝り、
『あの夜』の出来事から『さっき』の出来事まで説明した。

説明の途中、父親も帰宅し、父には母が説明した。

その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。

窓硝子は、鋭利な何かで傷が付けられていた。
『五寸釘』だと直感でわかった。

両親は俺を叱らず、
母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。

10分程してから警察が来た。
警察には父が事情を説明していた。

俺はしばらくの間、母親と居間にいたが、
少ししてから警官が居間に来て『あの夜』の事を聞いてきた。

ハッピーとタッチの事、
木に釘で刺された少女の写真の事、
淳の名前が秘密基地に彫られていたこと。

その後、放課後に出会った事など、
『あの女』に係わる全ての事を話した。

そして『さっき』の出来事も。

鑑識らしき人も来ていて、
俺が話している間に窓の指紋を採取していた。

俺が話した内容の中で、
警官がもっとも詳しく聞いてきたことが
『少女の写真』の事だった。

『その少女』の容姿や面識の有無などを聞かれたが、
それについては『よく分からない。』と答えるしかなかった。

そして裏山の地図を書かされ、
翌日、警察が調べに行くと言う事になり、
自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して警察官は帰っていった。

結局、指紋は出なかった。

しばらくして、慎・淳の親から電話がかかってきた。

親同士で何やら話していたが、
『あの女』に関する話というより、
学校にどのように説明するかを話していたようだ。

その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。

恥ずかしさなど微塵も無く、
純粋に『あの女』が怖く、なかなか寝付け無かった。

次の日の朝、
母親に起こされた時にはすでに午前8時を回っていた。

『遅刻する。』と俺が慌てていると、
母が『今日は家で寝てなさい。』と言った。

どうやら既に学校に事情を話したらしい。

父はすでに出社していたが、
母はパートを休んでいた。

『慎や淳も今日は学校を休んでいるのだろう、と思ったが、
あえて電話はしなかった。

慎は恐らく、厳格な両親に怒られて、
淳の両親は『不登校』になった淳の真実を知り、
ショックを受けているだろうと思うと電話するのが恐かった。

俺は自室に篭り、
『あの女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。

一時も早く追い詰められる『恐怖』から解放されたかった。

母親は何故か『あの女』の事を口にしてこなかった。
俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。

昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、
『ドスっ、』と家の外壁に鈍い音が響いた。

俺はとっさに『慎だ、』と思った。

あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、
窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。

俺は窓から外を眺めた。
家の前の路地にある電柱に慎がいるはず、と思ったが、
そこに、慎の姿は無かった。

どこかに隠れているのかと思い、
見える範囲で捜したが何処にもいない。

その瞬間、
庭先から『キャ!』と母親の声がした。

びっくりして窓を開け、身を乗り出し、下を見た。

母親が地面を見つめながら口元に手を当てがい、
驚いた様子で何かを見ていた。

俺は何が起こっているのか解らず
『どーしたの!』と聞いた。

母は俺の声にビクッと反応し、
こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。

俺は良からぬ感じを察したが、
母の指差す方向を見た。

そこには何やら、
ドロっとした紫色をしたゼリー状の物が付いていた。

先程の『ドスっ』の音の正体であろう。

視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。

そこには内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

俺はすぐに『あの女』が頭に浮かんだ。

すぐに、あの女の姿を捜したが、
何処にも姿は見えなかった。

母はふと思い出したように居間に駆け込み、
警察に電話をした。

母は青い顔をしていた。

恐らくこの時始めて『あの女』の異常性を知ったのだろう。

そうだ、あの女は異常なんだ。

きっと今も蛙を投げ込んできた後、
俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず。

きっと近くから俺を見ているはず。

鳥肌が立った。
『警察、早く来てくれ。』心の中で叫んだ。

もうこの家は『家』では無い。

『あの女』からすれば、
『鳥籠』のように俺達の動きが丸見えなんだ。

常に見られているんだと感じ出した。

しばらくしてパトカーがやってきた。
昨日とは違う警官二人だった。

警官一人は外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、
もう一人は俺と母に
『何か見なかったか?』
『その時の状況は?』
などなど、漠然とした事を何度も聞いて来た。

最後に警官が不安を煽るような事を言って来た。
『たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?
おそらく犯人はすぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです。』
と。

俺はたまらず、
『あの呪いの女なんです。
コートを着てる40歳ぐらいの女。
早く捕まえてください。』
と半泣きになって懇願した。

すると警官は、
『さっきね、山を見てきたんだ。
そしたら、犬の死体も板に彫られたお友達の名前も、
あと女の子の写真もあった。それを調べて必ず犯人を捕まえる。』
と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き、何やら話していた。

『ご主人に連絡を・・』みたいな事を言われていたようだ。

壁に付いた蛙の染み、
及びその死体の写真を撮り、
1時間程で警官達は帰って行った。

しばらくして父親が帰宅した。
まだ5時前だった。
昨日の今日だから心配になったのだろう。

夕食の準備をしている母も、
夕刊を読んでいる父も無言だったが、
どことなくソワソワしているのが分かった。

もちろん俺も、
次にいつ『あの女』が来るのか不安で仕方なかった。

その日の晩飯は家族皆が無口で、
只、テレビの音だけが部屋に響いていた。

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。

用心の為、一階の居間は、
電気を点けっぱなしにしておくことになった。
その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。
もちろんなかなか寝付けなかった。

どれぐらい時間が過ぎただろう。

突然玄関先で、
『オラァー!!』とドスの効いた男の声とともに、
『ア゛ー!ア゛ー!』と聞き覚えのある奇声が聞こえた。

俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。

父が玄関の鍵を開けると、再び、
『ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!』
と【あの女】の叫びが聞こえて来た。

『大人しくしろ!』『オラ!暴れるな!』と、男の声もした。

この時俺は
『警官だ!警官に捕まったんだ!』と事態を把握した。

あの女は奇声を上げ続けていた。

俺はがくがく震え、
母の腕の中から抜けれなかったが、
父親が戻って来て、
『犯人が捕まったんだ。
お前が山で見た人物かどうかを確認したいそうだが、大丈夫か?』
と 尋ねてきた。

もちろん大丈夫ではなかったが、
これで本当に全てが終わる、終わらせることが出来る、
と自分に言い聞かせ
『うん』と返事し、階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。

玄関先から、
『オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!』
と凄い叫び声が聞こえ、
足がすくんだが、父が俺の肩を抱き、
二人の警官に取り押さえられた『あの女』の前に俺は立った。

俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、
父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を女に送った。

両肩を二人の警官に固められ、
地面に顎を擦りつけながら『あの女』は俺を睨んでいた。

相当暴れたらしく、
髪は乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。
『オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!』
訳のわからない事をあの女は叫び、ジタバタしていた。
それを取り押さえていた警官が、
『間違いないか?山にいたのはコイツだね?』
と聞いてきた。

俺は女の迫力に押され、
声を出すことが出来ず、無言で頷いた。

警官はすぐに手錠をはめ
『貴様!放火未遂現行犯だ!』
と言った。

手錠をはめられた後も、
ずっと奇声を発し暴れていたが、
警官が二人掛かりでパトカーに連行した。

そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、
『事情を説明します。』
と話し出した。

警官『自宅前をパトロールしていると、
玄関に人影が見えまして、あの女なんですけど、、
しゃがみ込んでライターで火を付けていたんですよ。
玄関先に古新聞置いてますよね?』
母『いえ、置いてないですけど・・・?』
警官『じゃあこれも【あの女】が用意したんですかねー?』

と指差した。
そこには新聞紙の束があった。

確かにうちがとっている新聞社の物では無かった。
警官が『ん?』と何かに気付き、
新聞紙の束の中から木の板のようなものを取り出した。

それには《○○○焼死祈願》と、
俺のフルネームが彫られていた。

俺は全身に鳥肌が立った。
やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。

もし警察がパトロールしていなかったらと、
少し気が遠くなった。

母は泣きだし、
俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。

警官はしばらく黙っていたが
『実は、あの女、少し精神的に病んでまして。
○○町にすんでいるんですけど、結構苦情、
まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・』
と、あの女の事について語りだした。

警官「あの女、二年前に交通事故で主人と息子を亡くしてまして。
それ以来、情緒不安定というか。
まぁ近所との揉め事なども出てましてね。
山で発見された写真で、あの女のことは特定出来ていたんですよ。
二年前の交通事故。
あの少女が道路に飛び出して来たのをハンドルを切り、
壁に衝突して主人と息子が無くなったんですよ。
飛び出した少女は無傷で助かったんですが。
以来、あの少女の家にも、散々嫌がらせをしているんですよ。
ただ事故が事故なだけに、
少女の家からは被害届けはでてないんですが。
あの少女を相当怨んでいるんでしょうね。』
と。

俺はその話を聞き、
同情心などは一切わかなかった。

むしろ【あの女】の執念深さが、
ひしひしと伝わってきた。

何よりも警官も認めるほどの精神の異常さ。
これでは、すぐに釈放になるのではないか。
この先もずっと、
『あの女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?
警官の話を聞き、『安堵感』よりも『絶望感』が心に広がった。
それから5年・・・・
俺・慎・淳はそれぞれ違う高校に進んでいた。

俺達はすっかり会うことも無くなり、
それぞれ別の人生を歩んでいた。

もちろん『あの女』事件は忘れることが出来ずにいたが、
『恐怖心』はかなり薄れていた。

そんな高一の冬休み、
久しぶりに『淳』から電話が掛かってきた。

『おう、ひさしぶり!』
そんな挨拶も程ほどに、淳は、
『実は単車で事故ってさ、足と腰の骨を折って入院してるんだよ。』

俺『だせーな。どこの病院?寂しいから見舞いに来いってか?』
淳『まぁ、それもあるんだけどさ。お前【あの女】の事って覚えてる?
事件の事じゃなくて、顔、覚えてる?』
俺『何で、何だよ急に!』
淳『毎晩、面会時間終わってから。
変なババァが俺の事を覗きに来るんだよ、ニヤつきながら。』

淳の発した言葉を聞いたとたん、『あの女』の顔を鮮明に思い出した。

始めて出会ったあの夜の『歯を食いしばった顔』
下校時に出会った『いやらしいニヤついた顔』
自宅玄関で見た『狂ったような叫び顔』

あれから忘れる努力をしていたが、
決して忘れることの出来ない『トラウマ』だった。

俺は淳に
『何言ってんだよ、もう忘れろ。お前って気が小さいなー。』
と答えた。

まるで、自分自身に言い聞かせるように。

淳『そーだよな。なんか、妙に気が小さくなるんだよな。』
俺『そーゆーとこ、変わってねーな。』
と余裕を見せた。

そして、入院している病院を聞き、
『近いうちにエロ本でも持って見舞いに行くよ。』
と言い電話を切った。

電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。

『あの女』

淳の言葉が、妙に気になりだした。

電話を切った後、しばらく考えた。

まさか、今更『あの女』が現れるはずが無い。
それにあいつは捕まったはず。
いや、でも、釈放されたのか?

というか、
今思えば俺達三人は、
『あの女』に何をしたわけでも無い。

ただ『あの女』の、
呪いの儀式を見てしまっただけなのに、
こちらの払った代償はあまりにも大きい。

偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。

俺達は何一つ『あの女』から奪っていない。
それどころか、傷付けてもいない。

『あの女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、
秘密基地を壊し、何より俺達三人に『恐怖』を植え付けた。

『あの女』がいくら執念深いといっても、
さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。

こんなことを思うのも何だが、
怨むなら『写真の少女』に対してのはずだ。

俺は強引に、自分を納得させた。

2日後。

俺はバイトを休み、
本屋でエロ本を3冊買ってから、
淳の入院している病院に向かった。

久しぶりに淳に会うという『ドキドキ感』と、
淳が電話で言っていた事に対する『ドキドキ感』で、
複雑な心境だった。

病院に着いたのは昼過ぎだった。
淳の病室は三階。

俺は淳のネームプレートを探し出した。
303号室、六人部屋に淳の名前があった。

一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。

『よう、淳、久しぶり。』
『おう、本当にひさしぶりだなぁ。』

思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。

そして敦と他愛も無い話をたくさんした。

こうして二人で話していると、
小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。
無邪気に笑えた。

あっという間に時間は経ち、
面会終了時間が近づいてきた。

俺が『なら、もう良い時間だからそろそろ帰る。』
と言いかけた時、

『実はさぁ、電話でも言ったんだけど。』
と淳が真顔で話し出した。

俺はすぐにあの女のことを思い出した。
敦は続けて、
『気のせいだとはおもうんだけど、
いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ、
何か、こう、引っ掛かるとゆーか。』

俺は『だから、気のせいだって。ビクビクすんなよ。』
と強気な発言をした。

すると淳は少しカチンと来たのか、
『だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!』
空気が重くなった。

俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。

その時・・・・・

『ガラガラガラ・・』

廊下に台車のタイヤ音が響いた。

淳が小声で、『来た・・・』とつぶやく。

俺は視線を部屋の入口に向けた。

『ガラガラガラ。』
台車は扉の前に止まった。
そして、扉が開いた。

そこには、
上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。

俺は『何だよ、脅かすなよ。ゴミ回収のオバさんじゃねーか。』
と、少し胸を撫で降ろした。

そのオバさんは、
ベッドの横にあるごみ箱のゴミを回収しながら、
最後に淳のベットに近づいてきた。

淳が小声で『見てくれよ。』と言い、
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。

俺は息を飲んだ。

似ている。
いや、『あの女』なのか?

俺は目が点になり、
しばらく、その人を眺めていると、
そのオバさんはこちらを向き、
ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。

淳が『どう、やっぱ違う?俺ってビビりすぎ?』と聞いてきた。
俺は『全然ちげーよ、ただの掃除のおばさんじゃん。』と答えた。

俺は不安を隠すようにそう言ったが、
他人の空似なのか、確かにあの女に似ていた。

『じゃあ、そろそろ帰るわ。
あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!』
と俺が言うと、淳は、

『そうだな。あの女が病院にいるわけねーよな。
お前が違うって言うから安心したよ。また来てくれよ、暇だし。』
と元気よく言った。

俺は病室を出ると、足早に階段を駆け降りた。

頭の中からさっきの『おばさん』の顔が離れない。

小学生の頃に俺に恐怖を植え付けた、
『あの女』の顔は鮮明に覚えている。

しかし、あの女の一番の特徴といえば
『イッちゃってる感』だ。

さっきのおばさんは穏やかな表情だった。

もし、さっきのおばさんが、あの女なら、
俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、襲い掛かって来てもおかしくない。

そうだ。
やっぱり他人の空似なんだ。

と考えつつ、
なぜが病院にいるのが怖くなり、
早々に家路についた。

家に帰ってからも、
あの女とおばさんが同一人物であるかが、
気になって仕方なかった。

その日は、眠りに落ちるまでその事ばかり考えていた。

次の日、どうしても俺は、
『清掃のおばさん』の事が気になり、
バイトを早めに切り上げ、病院に行くことにした。

俺のバイト先からチャリで30分。

病院に着いたときには、
20時を回っていて面会時間も過ぎていた。

もう『清掃おばさん』も帰っている事は明白だったが、
臨時入口から病院に入り、とりあえず淳の病室に向かった。

こっそり淳の病室に入ると、
淳のベットはカーテンを閉めきってあった。
寝たのか、と思い、
そーっとカーテンを開けて隙間から中を覗いた。

『うわっ!』

淳が慌てて飛び起き、
『ビックリさせんなよ、』と言いながら、
何かを枕の下に隠した。

淳はエロ本を熟読していたようだ。

俺は敢えてエロ本の事には触れずに
『暇だろーと思って来てやったんだよ。』と淳の肩を叩いた。

淳は少し気まずそうに、
『おぅ、この時間は暇なんだよ。
ロビーでも行ってお茶でもする?』
と言った。

俺は車椅子をベットの横に持って来て、
淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。

淳が『ロビーは一階だから、
ナースに見つからんよーに行かんとな!』
と小声で言った。

俺達はコソコソと、
まるで泥棒の様に一階ロビーに向かった。

途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、
気配を消し、物陰に隠れ、やっとの思いでロビーに着いた。

昼間と違い、ロビーは真っ暗で、
明かりといえば自販機と非常灯の明かりしかなく、淳が
『何か暗闇の中をお前とコソコソするの、あの夜を思い出すよなぁ。』
と言った。

『そだな。何であの時、
アイツの事を尾行しちまったんだろーな。』
と俺が言うと淳は黙り込んだ。

俺は今日病院に来た理由、
すなわち『清掃おばさん』の事について、
淳に言おうと思ったが、躊躇していた。

淳はこの先、
1ヵ月近く此処に入院するのに、
そのような事を言うのはどうなのかと躊躇したのだ。

またあの時のように、
『原因不明の蕁麻疹』が出るかもしれない。

すると淳が、
『お前、あのおばさんの事できたんじゃないのか?』
と俺に言ってきた。

俺はとっさに、
『え、何が?』ととぼけたが、淳は、

「そーなんだろ。やっぱり似てる、
いや、【あの女】かもしれないんだろ?』
と真顔で詰め寄って来た。

俺はその淳の迫力におされ
『たしかに似てた。雰囲気は全然違うけど、似てる。』
と言った。

淳はうつむき、
『やっぱりそうか。前にも電話で言ったけど。』
と語り始めた。

淳は少し、声のトーンを下げ、
『俺が入院して二日目の夜、
足と腰が痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。
寝返りもうてないし、消灯時間だったし、仕方ないから、
目つむって寝る努力をしていたんだ。
そして少し睡魔が襲ってきてうとうとし始めたとき、
妙な【視線】を感じたんだ。
見回りの看護婦だろうと思って無視してたんだけど、
なんか、ハァ・・ハァ・・って息遣いが聞こえてきて。
何だろう、隣の患者の寝息かなぁ?って思って薄目を開けてみたんだよ。
そしたら俺のベットカーテンが3センチ程開いてて、
その隙間から誰かが俺を見ていたんだ。
その目は明らかに俺を見てニヤついてる目だったんだ。
俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど。
そして、そのまま寝てたらしく、気付いたら朝だったんだ。
後から考えたんだ。【あのニヤついた目】どこかで見覚えがあるって。
そーなんだよ。『清掃おばさん』の目にそっくりだったんだよ。』

【ニヤついた目】俺はその目を知っている。

『あの女』に、
そのニヤついた目付きで見つめられた事のある俺には、
すぐに淳の言う光景が浮かんだ。

更に淳は話を続けた。

『それにあの清掃おばさん、
ゴミ回収に来た時、ふと見ると、何かやたら目が合うんだ。
俺がパッと見ると、俺の事をやたら見ているんだ。
半分ニヤけ顔で。』

それを聞き、
俺が抱いていた疑問、
【清掃おばさん】があの女であることが確信に変わった。

やっぱりそうか、社会復帰していたんだ。
缶コーヒーを握る手が少し震えた。

決して寒いからでは無い。体が反応しているんだ。
『あの恐怖』を体が覚えているんだ。

その時、俺の後方から突如、光が照らされた。

『コラ!』

振り向くと、
そこには見回りをしている看護婦が立っていた。

『ちょっと淳君、どこにもいないと思ったらこんなとこに。
消灯時間過ぎてから勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ。
それに、お友達も面会時間はとっくに過ぎてるでしょ。』
と、かなり怒っていた。

淳は、『はいはい。じゃ、また近いうちに来てくれよな。』
と看護婦に車椅子を押され病室に戻って行った。

『おぅ、とりあえず、気を付けろよ。』と俺は言った。

俺もとりあえず帰るか、と思い、
入って来た急患用出入口に向かった。

それにしても夜の病院は気味が悪い。
さっきまで『あの女』の話をしていたからか、
そんなことを思い歩いていると。

ん?廊下の先に誰かがいる。
あれは。清掃おばさん。いや、『あの女』か?

間違いない、「あの女」だ。
この先の出入口付近で何かをしている様子だった。
俺はとっさに身を隠し、『あの女』の動向を伺った。

俺には気付いていないようだった。
俺は目を凝らし、しばらく観察を続けた。

大きな袋をゴソゴソし、もう一方に小分けしている?

ひょっとして、
病院内の収拾したゴミの分別をしているのか?

その時、後ろから
『ちょっと、まだいたの、私も遊びじゃないんだからいい加減にして。』
と、さっきの看護婦が。

俺はドキッとし、
『あ、いや、帰ります、どーも。』と言い、
出入口に目をやると『あの女』はこちらに気付き、
ジィーっとこちらを伺っていた。

看護婦は苛立ちながら、再び見回りに行った。

いや、それどころでは無い、
あの女に見つかってしまった。
どうすればいい、逃げるべきか?
先程の看護婦に助けを求めるべきか?

俺の頭はグルグル回転し始め、
心臓は勢いを増しながら鼓動した。

俺は『あの女』から目を離せずにいると、

『あの女』は俺から視線を外し、
何事も無かったように再びゴミの分別作業をし始めた。

『え?』

その想定外の行動に、俺は逆の意味で焦った。

俺はしばらく突っ立ったまま、
『あの女』を見ていたが、黙々とゴミの分別をしていて、
俺のことなど気にしていないようだった。

『何かの作戦か、』とも疑ったが、
俺の脳裏にもう一つの可能性が浮かんだ。

やはり、清掃のおばさんは、
似ているだけで別人だったのではないか。

俺がそんなことを考えている間も、
『その女』は黙々と仕事をしている。

俺は意を決して、その女がいる方向、
出入口へと向かい歩き出した。

少しずつ近づいて行くが、
相手は一向にこちらを見る気配が無い。

しかし、俺は『その女』から目を離さず歩いた。

気付けば、何事も無く、
俺は『その女』の背後まで到達した。

女は一生懸命ゴミの分別をしている。

手にはゴム手袋をハメ、
大量のゴミを燃える、燃えない、ペットボトル、に分けていた。

その姿を見て、
俺は『やはり別人か。。』と思っていると、
『その女』はバッ!っとこちらを見て

『大きくなったねぇ~。』

と俺に話し掛けてきた。
俺は頭が真っ白になった。

【大きくなったねぇ?オオキクナッタネェ?】

この人は俺の過去を知っている??
この人、誰?
この人、『中年女』?
こいつ、やっぱり『中年女』!!

その女は作業を中断し、
ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。
その表情はニコニコしていた。

俺はどんな表情をすればいい???

きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。

女は俺の目前まで歩み寄って来て
『立派になって。。もう幾つになった?高校生か?』
と尋ねてきた。

俺は『この女』の発言の意味が判らなかった。
何なんだ?
俺をコケにしているのか?
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか?
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか?

俺が黙っていると
『お友達も大きくなったねぇ、淳くん。
可哀相に骨折をしてるけど。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!』
と言ってきた。

もう、意味が全く解らなかった。

数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?
俺達に『恐怖のトラウマ』を植え付けた本人の言葉とは思えない。

『女』はなおも、ニヤニヤしながら
『もう一人いた・・あの子、元気か?色黒の子いたやん?』

慎の事だ。
何なんだコイツは。
まるで久しぶりに出会った旧友のように。
普通じゃない、わざとなのか。
何か目的があってこんな態度を取っているのか。
俺は『女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。

【こいつ、何言ってるのか解ってるのか?】

『あの時はごめんね・・・許してくれる?』
と中年女は言いながら俺に近づいてくる。

俺は返す言葉が見つからず、
ただ無言で少し後退りした。

『ほんまやったら・・もっと早くあやまらなあかんかってんけど・・』
俺は耳を疑った。

こいつ、本気で謝罪しているのか。
それとも何か企んでいるのか。

ついに『中年女』は、
手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。

『三人にキチンと謝るつもりやったんやで・・ほんまやで。。。』
と言いながら、ますます近づいてくる!

もう息がかかる程の距離にまで近づいた。

『あの時』とは違い、
俺の方が身長は20センチ程高く、
体格的にも勝っている。

俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、
ブッ飛ばしてやる、と考えていた。

『中年女』は俺を見上げるような形で、
俺の目を凝視してくる。

しかし、その目からは、
『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。

真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。

『あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー。。』
と『中年女』は謝罪の言葉を並べる。

俺はもう、
その場の『緊張感』に耐えれず、
ついに走りだし、その場を去った。

走ってる途中、
『もし追い掛けられたら』と、
後ろを振り向いたが『中年女』の姿は無く、ある意味拍子抜けた。

走るのを止め、立ち止まり、考えた。
さっきのは本当に本心から謝っていたのか?

俺は中年女を信じることが出来なかった。
疑う事しか出来なかった。

まぁ、『あの事件』の事があるから当たり前だが。

俺は小走りで先程の場所の近くに戻ってみた。

そこには再びゴム手袋をはめ、
大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。

こいつ、本当に改心したのか?

必死に作業をする姿を見ると、
昔の『中年女』とは思えない。

とりあえず、その日はそのまま帰宅した。

俺は自室のベットに横になり、一人考えた。

人間はあそこまで変わることが出来るのか?
昔、鬼の形相で2匹の犬を殺し、
俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。

『ごめんね』など、
心から償いの言葉を発することが出来るのか。

いや、ひょっとして、
【あの事件】をきっかけに俺が変わってしまったのか。

疑心暗鬼になり、
他人を信じる事が出来ない、
『冷たい人間』になってしまったのか。

『中年女』の謝罪の言葉を信じることで、
【あの事件】の精神的な呪縛から解放されるのか。

もう一度、『あの女』に会い、直接話すべきだ。

俺は『あの女』にもう一度会うこと、
今度は逃げずに話をすることを心に決め、
その日は就寝した。

そして次の日、俺はバイトを休み、病院に行った。

まずは淳の病室に入り、
昨日の出来事を説明した。

そして今日は、
『あの女』に会い、直接話してみるつもりだ。
と 言う事を伝えた。

淳は最初『あの女』は変わっていない、
と俺の意見に反対だったが、

『このまま一生、あの女の存在に怯え、
トラウマを抱えたまま生きていくのか?』
と俺が言うと

『・・・中年女に会って話すんだったら俺も付き合う、。。』
と言ってくれた。

しばらく沈黙が続いた。

刻々と時間は過ぎ、
面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に
『ガラガラガラ・・・』
廊下の奥の方からゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。

『。。来たな。。。』

淳がボソッと呟いた。
俺は固唾を飲んで部屋の扉へ視線を送った。

『ガラガラガラ、』
台車の音が部屋の前で止まった。
部屋の扉が開いた。

作業服の『あの女』が、
会釈しながら入室してきた。

俺と淳はその姿を目で追った。

『あの女』は、奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。

『ごくろうさん。』と患者から声を掛けられ、
笑顔で会釈をする女。

とても、同一人物と思えない。

そして、ついに、
淳のベットのゴミ回収に中年女がやってきた。

『あの女』はこちらに一切目を合わせず、
軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。

俺は何と声を掛けていいのかわからず、
しばらく中年女の様子を伺っていたが、淳が
『おばさん、どーゆーつもりだよ。』
と 切り出した。

中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。

淳は続けて、
『あんた、俺の事覚えてたんだろ?
俺には謝罪の言葉一つも無いの?』
俺はドキドキした。

まさか淳が急にキレ口調で話すなんて予想外だった。

中年女は俯いたまま
『・・・ごめんねぇ。。。』と、か細い声を出した。

淳はその素直な返答に驚いたのか、
キョトンとした目で俺を見て来た。

俺は、
『。。。おばさん。。。本当に反省してるんだよね?』
と聞いてみた。

すると中年女はこちらを向き、
『本当にごめんなさい。私があんな事したから淳君、
こんな事故に会っちゃって。私があんな事したから、ほんとゴメンね。』
と。

俺と淳は更にキョトンとした。
何だか話がズレていないか?

俺は、
『いやいや、俺達が言っているのは、
犬に酷い事をしたり、俺の家に来たり、
そういったことすべてひっくるめて!』
と言った。

中年女は、
『本当にごめんなさい。
私が、私があんな事さえしなければ、こんな事故。
ごめんね、本当にごめんね。』
と、泣きそうな声で言った。

その態度、
会話を聞いていた病室内の患者の視線が、
一斉にこちらに注目していた。

静まり返った病室に、
『ゴメンね、ごめんなさい、ゴメンなさぃ。』
と中年女の声だけが響いた。

淳は少し恥ずかしそうに、
『もういいよ。だいたい、俺が事故で骨折したのが、
あんたとは一切関係ねーよ。』
と吐き捨てた。

中年女はペコペコ頭を下げながら、
淳のベットのゴミを回収し、最後に
『ごめんなさい。』
と言い、そそくさと病室から出て行った。

その光景を周りの患者が見ていたので、
しばらく病室は変な空気が流れた。

淳は、
『何なんだよ、あのおばさん。
俺は普通に事故っただけなのに、何勘違いしてやがんだよ。』
と、言いながら枕を殴ったた。

俺は、『あの女』の行動、
言動を聞いていてハッキリと思った。

やはり『あの女』は少しおかしい。

いや、謝罪は心からしているのだろうが、
アイツは『呪いの儀式』を行った事を謝っていた。

『呪い』を本気で信じているようだった。

淳は、『あの頃は無茶苦茶怖い存在で、
今だにトラウマでビビってたけど、
さっき喋って思ったのは、
単なるオカルト信者のばばぁだったって事だな!』
と何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。

俺は、『あぁ、昔と違って俺らの方が体もデカくなったしな。』
と調子を合わせた。

『さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ。』
『おぅ、また暇な時は来てくれよ。』

そう、言葉を交わし、
俺は病室を出て家路に就いた。

家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。

アイツにもこの事を伝えてやろうと。

アイツも今回の話を聞かせてやれば、
『あの日のトラウマ』が無くなるかもしれない。

家に帰り早速、
慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、
慎の携帯番号を聞いた。

そして慎の携帯に電話を掛けた。

『おう、久しぶり。』なつかしい慎の声。

俺はしばし慎と、
最近どう?的な話をした後、
淳が事故って入院したこと、
その病院に『あの女』が 清掃員として働いていること、
あの女が昔と別人のように心を入れ替えている事を話した。

慎は『あの女』が謝罪してきたことに対し、
たいそう驚いていた。

そして最後に慎は、
『淳が退院したら三人で快気祝いをしようぜ。』
と 言った。

もちろん俺は賛成し、
淳の退院のメドが着き次第連絡する。と伝えた。

その翌日、
俺は病院に行き淳に、
『慎がおまえの退院が決まり次第、
こっちに帰って来て快気祝いしようって言ってたぜ!』
と伝えた。

淳はたいそう喜んでいた。

それから一週間程、
病院に見舞いには行かなかった。

別に理由は無いが、
新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。

それに『あの女』が更正しているようだったので、
心配も、以前ほどはしていなかった。

何かあれば淳から電話があるだろうと思っていた。

そんなある日、淳から電話が掛かってきた。

内容は『来週退院する。』との事だった。
俺は『良かったな。』と祝福の言葉と共に、
『あの女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない。』
との事だった。

そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。

俺は学校帰りに淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。

『おぅ、上がれよ。』
足にはギブスをはめたままだったが、
すっかり元気そうだった。

俺たちは淳の部屋でしばし雑談をした。

夕方になり俺は帰宅し、
夕飯を喰った後、慎に電話をした。

『淳、退院したぜ。』
『そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな。
すぐにでも行きたいけど、部活が忙しいから、月末にそっち行くよ。』
との事だった。

そして月末の土曜日。
俺、慎、淳。

小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。

昼に、駅前で待ち合わせた。

久しぶりに会った慎は、
冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。

それはさておき、夕方まで色々と語った。

それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話。

もちろん『あの女』の話題も出てきた。

あの時、何よりも恐ろしく感じていた『あの女』も、
今となればゴミ回収のおばさん。

病院での出来事を俺と淳が慎に詳しく話してやると、慎は、
「あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな。』
と笑いとばした。

もう俺達にとって、
『あの女』は過去の人物、
遠い昔話で、トラウマでも無くなっていた。

夕方になり、俺達はカラオケボックスに行った。

久しぶりの『三人』での再会と言うこともあり、
俺達は再会を祝して、『酒』を注文した。

いい気分で歌を歌い、
かなりテンションが高かった。

そして二時間ほど経ち、
歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。

『よーし、今から秘密基地に行くぞ。
あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ。』

一瞬、空気が凍った。
まさか、『あの場所』に行こうなんて。
俺と敦にとっては、予想外の発言だった。

慎はそんな俺達を挑発するように、
『お前ら、変わってないな。ビビってんの?ハハッ。』
と、少し悪酔いしていた。

その言葉に酔っ払い淳が反応し、
『あ?誰がビビるかよ、喧嘩売ってんのか。』とキレ出した。

俺は酔いながらも空気を読み、
『おいおい、やめとけ。第一、淳は、まだギブス取れてないじゃん。』

慎がすかさず、
『あ、そっか。それじゃいざって時、逃げられないもんな。』
と、かなりの悪酔いしていた。

淳は益々ムキになり
『うるせーよ。行ってやるよ。お前こそ途中でビビんじゃねーぞ。』
と、まるで子供の喧嘩のようになり、

結局、
『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』、
と言う名目で行くことになった。

慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、
引くに引けなかったんだと思う。

実際、俺達の心の中で、
ハッピーとタッチの供養は、
いずれしなければならないと思っていたので、
いい機会かも、と少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。

カラオケボックスを出て、
コンビニに寄り、あの2匹が大好きだった、うまい棒とコーラを買い込み、
俺達は『小学校の裏山』へと向かった。

タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、
山の入口でタクシーを降りた。

俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に、
『あの日』の出来事を思い出した。

こんな夜更けに・・又、入ることになるとは・・・
そんな俺の気持ちも知らずに、淳は意気揚々と

『さぁ、入ろうぜ!』
と、杖を突きながらズカズカと入っていく。

その後ろをニヤニヤしながら、
慎が明かりを燈しながら付いて行く。

俺も、二人に続いた。

いざ山に入ると、
昔と景色が変わっていることに驚いた。

いや、景色が変わったのでは無く、
俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか。

30分程で『あの場所』に到達した。

あの場所、初めてあの女と会った場所。

俺達は黙り込み、
ゆっくりと明かりを燈しながら『あの木』に近づいた。

『あの日』、あの女が呪いの儀式をしていた場所。

間近に寄り、明かりを燈した。

今は何も打ち込まれておらず、
普通の大木になっていた。

しかし、古い『釘痕』は残っており、
所々、穴が開いていた。

恐らく、警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。

そして慎が、
『ここらへんでハッピーが死んでたんだよな。』と、
地面を照らした。

さすがにもう、ハッピーの遺体は無かったが、
ハッキリとその場所は覚えている。

俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。

そして三人で手を合わせ、
次は『秘密基地跡』へと向かった。

秘密基地に向かう途中、淳が、
『色々あったけど、やっぱ懐かしいよな。』
とポツリと言った。

すると慎が、
『あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ。
嫌な思い出なんて無かっただろうな。』
と言った。

この山で『あの女』に会わなければ、
ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。

『ここらへんだったよな。』
慎が立ち止まった。

そこにはもう何もなく、
秘密基地の跡地どころか、
基地があったという形跡も無かった。

あの日、
バラバラにされていた材木すら一枚も無かった。

淳が無言でしゃがみ、
うまい棒とコーラを置き、手を合わせた。

俺と慎も手を合わせた。

しばらく黙祷したのち、慎が言った。

『ハッピーとタッチがいなけりゃ、
今頃、俺達もいなかったかもな。』

しばらく沈黙が続いた。

ふと、慎が周囲や目の前の池を懐中電灯で照らし、
『この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、
結構来てる奴いるみたいだな。』と言った。

慎が燈す場所を見ると、
スナック菓子の袋や空き缶が結構落ちていることに気付いた。

俺は、
『ほんとだな、あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。
今の小学生、この場所のこと知っているのかな。』と言った。

淳が続けて、
『あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな。』と言った。

その時、慎が、
『うわっ、何だこれ?』と叫んだ。

俺と淳はその声に驚き、
慎の照らす明かりの先に視線をやった。

一本の木に何やらゴミが張り付いている。

よく見ると、無数のお菓子袋や空き缶、
雑誌が木に釘で打ち付けられていた。
『なんだこれ。』
慎が明かりを照らしながら近づいていった。
俺と淳も後を追った。

『誰かのイタズラか??』
俺は打ち付けられたゴミをまじまじと見た。

その時、
『これ。俺のゴミ。うぁぁぁぁあああ。』
と、淳が震えた声で言いながら硬直した。

『え?』俺と慎は聞き直した。

淳は、
『これ、俺が病院で捨てたゴミ。
これ全部、俺が捨てたゴミなんだよ。』
と、言いながら後ずさりした。

慎が、
『おい、淳、しっかりしろ、んなわけねーだろ。』
と怒鳴りながら、釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。

それを見て、淳は、
『あー、あああああああ。』
と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。

その行動に俺と慎は呆気に取られたが、
次の瞬間『うわっ。』と、慎が手に持っていた袋を投げた。

俺がその袋に目をやると、袋の裏に

『淳呪殺』

とマジックで書かれていた。

俺はまさかと思い、
木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。

『淳呪殺』『淳呪殺』『淳呪殺』『淳呪殺』…

すべてのゴミに書かれていた。

淳は口をパクパクさせながら、
尻餅を付いた状態で固まっていた。

俺はその瞬間、確信した。
『あの女』は更正なんかしていなかったんだ。

あの日、あの時、あの瞬間から、
今の今まで、俺達をずっと恨み、
呪い殺すための儀式を続けていたのだ。

俺が病院で見掛けた、
ゴム手袋をして必死で分別していたのも、
淳のゴミを分けていたんだ。

俺達に『ごめんね』と言っていたのも全部嘘だったんだ。

俺は急にとてつもなく寒気を感じ、
此処にいてはいけない、と本能的に思い、淳に、
「おい、しっかりしろ、行くぞ。」と言ったが、

『俺のゴミ。俺のゴミ。』と喋りながら、
淳の精神は壊れ、発狂していた。

とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。
・・・あれから8年。
あの日以来、もちろん山には行っていない。
『あの女』とも会っていない。

まだ俺達を怨んでいるのだろうか?
どこかで見られているのだろうか?

今はもう分からないが、俺達三人は生きている。
ただ・・・・・・今だに、淳は歩く事が出来ない。


【閲覧注意】ネット騒然の恐ろしい話「憑依」自己責任で閲覧してください。※動画有り

あらかじめお断りしておきますが、

この話を読まれたことで、その後、
何が起きても保証しかねます。

※自己責任のもとで読んでください。
※保証、責任は一切持ちません。

※動画バージョン

5年前、私が中学生だった頃
一人の友達を亡くしました。

表向きの原因は精神病でしたが、
実際はとあるモノに憑依されたからです。

私にとっては、
忘れてしまいたい記憶の一つですが、
先日古い友人と話す機会があり、

あの出来事を思い出させられてしまったのです。

お話として残すことで、
少しは客観的に見れると思ったのもあり、
ここで語りたいと思います。

私たち(A、B、C、D、私)の5人は、
皆、家業を継ぐことになっていたこともあり、
高校受験をする周りを横目に暇を持て余していました。

度々、学校もズル休みしていた私たちですが、
そんなある日。

友人のAとBが、
こんな話を聞いてきました。

改築したばかりの家の主人が、
自ら命を断ち、その後、一家は離散し、
空き家になっているというもの。

学校をサボっていた私たちにとって、
良いたまり場になるのではないかと考え、
早速、翌日にその場所へと向かいました。

行ってみると、
とても立派な屋敷で、無断で立ち入るのに、
少し躊躇しましたが、

AとBは気兼ねせず、
どんどんと中に入って行きました。

最初は、
たまり場として利用しようと考えていた私たち。

しかし、
それもすぐに飽きてしまい、
家の中の探索を始めました。

早速、あれこれ、家の中を物色。

するとCが、
「あれはなんだ」と、
探索中の部屋の壁の上に何かを見つけました。

見た感じ、
学校の音楽室などについている、
小さな二つの窓。

その部屋には、
扉もあったのですが、
その扉は本棚で塞がれていて、
隣の部屋に行くにはその窓を通るしかありません。

冒険心から私たちは、
Cを肩車、その窓の一つを開いてみました。

すると、
その窓から、
若干の悪臭が。

この時に、
疑問を持つべきだったと今では思いますが、
その時は、若気の至りもあり、
無理やりにその部屋に入った私たち。

部屋の中はカビだらけ。

雨漏りもしているのか、
じめっとした感じ。

そして、
部屋の隅っこには、
小さな机が置かれていました。

「なんだこれ、気持ち悪い。」

Aの言葉に視線を送った私。

その目線の先には、
写真入れに入れられた、
真っ黒に塗りつぶされた写真が。

そして、
Aがそれを持ち上げた瞬間、

その中から、
束になった髪の毛と、
一枚の紙が落ちてきました。

よく見ると、その紙は御札でした。

その瞬間、
なぜか背筋が凍るような感覚を受けた私たち。

「急いで逃げよう!」

掛け声と共に、
その場を後にしようと、
窓によじ登る、B。

しかし、
腐りかけた壁紙が崩れてしまい、
よじ登ることが出来ません。

しかも、
その剥がれた壁紙の裏側には、
大量の御札が貼られていたのです。

パニックになった私たち。

一刻も早くこの場を去ろうと、
Bがよじ登り、そのお尻を押し込む私とD。

すると、突然後ろから、
「いーーー、いーーーー。」
という奇声が聞こえてきました。

あまりの恐怖に、
振り返ることが出来ませんでしたが、
その奇声の正体がAなのは分かっていました。

Aは何かに祟られた。

私たちは漠然とそう感じました。

とにかく、
この場を一刻も早く去りたかった私たち。

BとD、
そして私の3人が、
なんとかして別の部屋に移りました。

そして、
動きの遅いCを引っ張り出そうとすると、

「痛い、痛い」
「引っ張るな」

向こうの部屋で、
Aに引っ張られているのか、
痛がりながら、足で壁を何度も何度も蹴っていました。

「近くの神社から神主さん呼んで来い!」

Aを引っ張るDが後ろを振り向き、
Bにそう言いました。

すぐさまBは裸足で走り出す。

そして、
私とDの二人でCをなんとか引っ張り出すと、
Cの足にはくっきりと歯形が残っていました。

恐らく、Aに噛まれたのでしょう。

そこには唾液がベッタリ。

部屋の向こうでは、
相変わらず、Aが奇声を上げ、
私たちは恐怖から、
窓の向こうから部屋を覗くことも出来ずにいました。

私たちが呆然としていると、

「お前ら、なにやってんだ!」

物凄い形相の神主さんを連れ、
涙で顔がグッショリしたBが戻ってきました。

「お前らは、今すぐここから出て、
社務所のヨリエさんに見てもらえ。」

神社の社務所に行くと、
中年のおばさんが私たちを待っていました。

こっぴどく怒られたような気もしますが、
安堵からか、その後のことは、
正直、あまり覚えていません。

その日から、
Aが学校に来なくなりました。

そして私たちは、
山の裏の屋敷には、
絶対に行くなと言われました。

あんな恐怖体験をした私たちは、
それに懲りたのか、

その日から、
おとなしく過ごすように。

そして、学校の期末試験が終わったある日、
生活指導の先生から呼び出しを受けた私。

これまでのことで、
何か怒られるのだろうかと思った私ですが、
行ってみると、

そこには生活指導の先生の姿はなく、
BとD、そして神主さんがいました。

すると、
神主さんから衝撃の事実が告げられました。

「言いにくいけどな、Cが死んだ。」

あまりの発言に言葉を失った私。

神主さんが言うには、
昨日、授業をサボったCが、
こっそりとAの様子を見に、神社に訪れたとのこと。

そこでAを見たCが、
白目をむいてそのまま帰らぬ人になったというのだ。

意味が理解できなかった私とBとDでしたが、
続けて神主さんが、

「いいかよく聞け、AとCのことはもう忘れろ。
あれは、覚えているヤツに憑依する。
だから、全て忘れろ。それと、後ろ髪は伸ばすな。」

そういうと、
私たちは帰されました。

この瞬間、
私たちのその後の人生は大きく変わりました。

卒業後に、
家業を継ぐという話はなくなり、
私とBとDはそれぞれ別の県に出ることに。

私は、1年遅れで、隣の県の高校に入ることができ、

これまでのことを忘れて、
自分の生活に没頭しました。

髪は短く刈り上げていましたが、
坊主にするたびに、あの時のことを少し思い出し、
いつアレが私の元に来るか、
ビクビクしながらの3年が過ぎました。

そして、
その後は大学に進学。

そんな時、
私の元に、祖父の訃報が舞い込んできました。

過去の出来事を知っていた父親ですが、
初盆ぐらいは帰って来いとのこと。

私は元々、
おじいちゃん子だったこともあり、
せめて、初盆ぐらいはと思い、
久々に実家に帰ることにしました。

久しぶりに帰って来た地元。

駅の売店で、
飲み物でも買おうかと立ち寄ると、
そこで、中学時代の彼女が、売り子をしていました。

すると、
私の顔を見るなり、
急に泣き出したのです。

彼女は泣きながら、
BとDが死んだことを私にまくしたてました。

Bは卒業してまもなく、
下宿先の自室で、首を吊ったそうです。

そして、
Dは、パンツ1枚で笑いながら歩いている姿が目撃されており、
その後、不審な死を遂げたらしい。

その遺体の頭部は、
まるで鳥がむしったかのように、
髪の毛が抜かれていたとのこと。

私は、自分の運命を呪いました。

と、同時に、
この世で”アレ”の存在を覚えているのは、
もう私だけしかいないのではないか、
そんなことが頭をよぎりました。

そこから先は頭が真っ白で、
どう実家まで帰ったかも覚えていません。

そして、実家に帰ると、
家には誰もいませんでした。

後で知ったことですが、
私の地方には、忌廻しという習慣があり、

不幸な出来ごとのあった家は、
初盆を奈良のお寺で行う風習があったのです。

そう。

私は、”アレ”に連れてこられたのです。

それからの3日間、
私は高熱が続き、実家で寝込んでいました。

さすがの私も死を覚悟し、
白い服をまとい、仏間で寝泊まりをすることに。

すると、3日目の夜、
夢にAが出てきました。

白目を向き、骨と皮だけのA。


「後はお前だけやな。」


「うん」


「お前もこっちに来い」


「嫌だ」


「Cが会いたがってるぞ」


「嫌だ」


「お前が来ないと、Cがかわいそうだ」
「あいつは地獄でずっとリンチされてるんだ」


「地獄がそんな甘いわけないだろ」


[ははは、地獄っていうのは…]

と、ここで目を覚ましました。

あまりの恐怖でしたが、
私はここで一つの考えに至りました。

今、”アレ”のことを知っているのは私だけ。

だから、”アレ”に憑依されるのは、
私しか、候補がいないのではないか。

なら、”アレ”の話を、
多くの人にすれば、私が憑依される確率は、
グッと下がるのではないか。

ここまでの長文、申し訳ありませんでした。

詳細を話さなければ、
これを聞いた人の記憶には、
残らないと思ったので、
詳しく話させていただきました。

もし、アレに憑依されるのが嫌なのであれば、
多くの方にこの話をされることをオススメします。

そう・・・私のように。


【怖い話、長編】ネットで有名な恐ろしい話「姦姦蛇螺(かんかんだら)」※動画有り

※動画バージョン

俺は、小中学生の頃、田舎に住む世間知らずで、

仲の良かったAとBと三人で、毎日荒れた生活をしていた。

俺とAは家族にも見放されていたけど、
Bだけは母親に構ってもらっていた。

怒る時はちゃんと怒るって感じで、
何だかんだ、Bのためにいろいろと動いてくれていた。

Bが中3の時、母親と大喧嘩をした。

内容は言わなかったが、Bが母親を傷つけたらしい。

そして、
ちょうどその喧嘩中に、
Bの親父が帰ってきたらしく、
一目で状況を察した親父は、
Bを無視して黙ったまま母親に近づいていった。

服とか髪とか、ボロボロなうえ、
死んだ魚みたいな目で床を茫然と見つめてる母親を見て、
親父はBに言った。

「お前、ここまで人を踏み躙れるような人間になっちまったんだな。
母さんがどれだけ、お前のことを想っているか、分からないんだな。」

親父はBを見ず、
母親を抱き締めながら、そう話していたそうだ。


「うるせえよ。ぶっ殺してやろうか」

Bは全く話を聞く気がなかった。

だが親父は何ら反応する様子もなく、
淡々と話を続けたらしい。

「お前、自分には怖いものなんか何もないと、そう思ってるのか。」


「ねえな。あるなら見せてもらいたいもんだぜ。」

親父は少し黙った後、こう続けた。

「お前は俺の息子だ、
母さんがお前をどれだけ心配しているかもよく分かっている。
だがな、お前が母さんを傷つける事しか出来ないなら、俺にも考えがある。
これは父としてではなく、一人の人間として話す。
先にはっきり言っておくが、俺がこれを話すのは、
お前が死んでも構わないと覚悟した証拠だ。
それでいいなら聞け。」

その言葉に何か凄まじい気迫みたいなものを感じたらしいが、
Bは「いいから話てみろ」と煽った。

「森の中で、立入禁止になっている場所を知っているよな。
あそこに入って奥へ進んでみろ、後は行けばわかる。
そこで今みたいに暴れてみろ、出来るもんならな。」

Bの親父が言う森っていうのは、
俺達が住んでいる地域にある、小高い山の麓のこと、
まぁ、樹海みたいなもんかな。

山自体は普通にはいれるし、
森全体も普通なんだけど、中に入っていくと、
途中で立入禁止になっている区域がある。

そこは、2メートル近い高さの柵で囲まれ、
柵には太いあみと有刺鉄線、柵全体には連なった白い紙がからまっていて、
大小いろんな鈴が無数についている。

明らかに、周りと雰囲気が違う、異様な場所。

それと、時折、
巫女さんたちが入口に集まっているのを見かけることがあり、
その日は付近一帯が立入禁止になるので、何をしているのかは謎だった。

その場所に関しては、
いろんな噂が飛び交っていたが、
カルト教団の洗脳施設があるというのが、
一番もっともらしい噂。

親父はBの返事を待たず、
母親を連れて2階に上がっていった。

Bはそのまま家を出て、
待ち合わせしていた俺とAに合流、そこで俺達もその話を聞いた。


「そこまで言うなんて相当だな。」

「噂じゃカルト教団のアジトだっけ、捕まって洗脳されちまえって事かな。
怖いと言えば怖いが、どうする、行く?」

「行くに決まってんだろ。どうせ親父のはったりだ。」

面白半分で俺とAも参加し、三人でそこへ向かう事になった。

あれこれ道具を用意して、
時間は夜中の一時過ぎぐらいだったかな。

意気揚揚と現場に到着し、
持ってきた懐中電灯で前を照らしながら、
俺たちは森へ入っていった。

軽装でも進んで行けるような道だし、
俺達はいつも地下足袋だったから、歩きやすかったけど、
問題の地点へは40分近くは歩かないといけない。

ところが、入って5分もしないうちにおかしな事になった。

俺達が入って歩きだしたのとほぼ同じ、タイミングで、
何か音が遠くから聞こえ始めた。

夜の静けさがやたらとその音を強調させる。

その音に最初に気付いたのはBだった。

「おい、何か聞こえないか」

Bの言葉で耳をすませてみると、確かに聞こえた。

落ち葉を引きずる「カサカサ」という音と、
枝が「パキパキ」と折れる音。

それが遠くの方から微かに聞こえてきている。

遠くから微かに、というせいもあって、
さほど恐怖は感じなかった。

森だし、動物の一匹や二匹ぐらいいるだろうと思い、
俺たちは構わず進んでいった。

そのまま二十分ぐらい進んできたところでまた、
Bが何か気付き、俺とAの足を止めた。


「A、お前だけちょっと歩いてみてくれ」

「何でだよ」

「いいから早く」

Aが不思議そうに一人で前へ歩いていき、
またこっちへ戻ってくる。

それを見て、Bは考え込むような表情になった。

俺とAはその焦らすような仕草にたまらず、
「なんだよ、言えよ」とBを問い詰めた。

すると、Bは「静かにしてよく聞いてみ」と言い、
Aにさせたように一人で前へ歩いていき、
またこっちに戻ってきた。

それを何度か繰り返して、ようやく俺達も気付いた。

遠くから微かに聞こえてきているその音は、
俺達の動きに合わせていた。

俺達が歩きだせばその音も歩きだし、
俺達が立ち止まると音も止まる。

まるでこっちの様子がわかっているようだった。

少しだけ背筋が凍るような感覚を受ける俺たち。

周囲に俺達の懐中電灯以外の光はない。
月は出ているが、木々に遮られほとんど真っ暗だった。

懐中電灯をつけているのだから、
こっちの位置が分かることは不思議じゃない。

だが、一緒に歩いてる俺達でさえ、
互いの姿を確認するのに目を凝らさなきゃいけない暗さ。

そんな暗闇で、
光も付けずに何をしているのか、
なぜ俺達と同じように動いているのか、


「ふざけんな、誰かが俺達をつけてやがんのか」

「近づかれてる気配はないよな。
向こうはさっきからずっと同じぐらいの位置だし」

Aが言うように、
森に入ってからここまでの二十分ほど、
俺達とその音との距離はずっと変わっていなかった。

近づいてくるわけでも遠ざかるわけでもない、
終始同じ距離を保ったまま。


「監視されてんのかな」

「そんな感じだよな、カルト教団とかなら、
何か変な装置とか持ってそうだしよ」

音から察すると、複数ではなく、
一人がずっと俺達にくっついてるような感じだった。

しばらく足を止めて考え、
下手に正体を探ろうとするのは危険と判断し、
一応周辺を警戒しつつ、そのまま先へ進む事にした。

それからずっと音に付きまとわれながら進んでいたが、
やっと柵が見えてくると、音なんかどうでもよくなった。

音以上に、その柵の様子の方が不気味だったからだ。

三人とも見るのは初めてだったんだが、想像以上のものだった。

同時に、それまでになかった、
ある考えが頭によぎってしまった。

普段は霊のことを馬鹿にしている俺達から見ても、
その先にあるのが、現実世界のものではないと思えるほどの異様な光景。

まさか、カルト教団とかではなく、
そういった類のモノがこの先に存在しているのか?

森へ入ってから初めて、
俺達はやばい場所にいるんじゃないかと思い始めた。


「おい、これをぶち破って奥に行けってのか?
誰が見ても普通じゃねえだろこれ」

「うるせえな、こんなんでビビってんじゃねえよ」

柵の異常な様子に怯んでいた俺とAを怒鳴り、
Bは持ってきていた道具で柵をぶち壊し始めた。

破壊音よりも、鳴り響く無数の鈴の音が凄かった。

しかし、ここまでのモノとは想像していなかったため、
持参した道具じゃ貧弱すぎた。

というか、不自然なほどに頑丈だったんだ。

特殊な素材でも使ってんのかってぐらい、
びくともしなかった。

結局、よじ上るしかなかったんだが、
あみのおかげで上るのは割と簡単だった。

だが柵を越えた途端、激しい違和感を覚えた。

閉塞感と言うのかな、檻に閉じ込められたような息苦しさを感じた。

AとBも同じだったみたいで、
踏み出すのを躊躇したんだが、
柵を越えてしまったからにはもう行くしかなかった。

先へ進むべく歩きだしてすぐに、三人ともあることに気付いた。

ずっと付きまとってた音が、
柵を越えてからパタリと聞こえなくなっていた事に。

正直、そんなことはどうでもいいと思えるほど嫌な空気だったが、
Aが放った言葉でさらに嫌な空気が増した。

「もしかしてあの音のやつ、
ずっと柵のこっち側にいたんじゃないのか?
それで俺達に近付けなかったんじゃ」


「そんなわけねえだろ、
俺達が音の動きに気付いた場所ですら、
ここから見えねぇんだぞ。
森に入った俺達の様子が、ここから分かるわけねぇだろ」

普通に考えれば、Bの方が正しかった。

禁止区域と森の入口はかなり離れている。

時間にして四十分ほどと書いたが、
俺達だってちんたら歩いていたわけじゃないし、
距離にしたらそれなりにはなる。

だが、現実のものじゃないかも、
という考えがよぎってしまった事で、
Aの言葉を完全には否定できなかった。

柵を見てから徐々にやばいと感じ始めていた俺とAを尻目に、
Bだけが俄然強気だった。

「霊だか何だか知らねえけどよ、
お前の言うとおりだとしたら、
そいつはこの柵から出られねえって事だろ?
そんなやつ大したことねえよ」

そう言って奧へと進んで行った。

柵を越えてから三十分ほど歩き、
うっすらと反対側の柵が見え始めたところで、
不思議なものを見つけた。

特定の六本の木に注連縄が張られ、
その六本の木を六本の縄で括り、六角形の空間がつくられていた。

そして、その中央には、
賽銭箱のようなものがポツンと置いてあった。

それを目にした瞬間、俺達は言葉を失った。

特に俺とAは、いよいよやばい場所に来たと焦っていた。

馬鹿な俺達でも、
注連縄が何のために用いられているものか、何となくは知っている。

この場所を立入禁止にしているのは、
間違いなく目の前のこの光景のためだ。


「お前の親父が言っていたのって、たぶんこれの事だろ」

「ここで暴れるとか無理。明らかにやばいだろ」

だが、Bは強気な姿勢を崩さなかった。

「別に悪いもんとは限らないだろ、
とりあえずあの箱の中を見て見ようぜ、お宝でも入ってっかもな」

Bは縄をくぐって六角形の中に入り、箱に近づいていった。

俺とAは、箱の中身よりもBが何をしでかすか不安だったが、
とりあえず、Bに続いた。

野晒しで雨風に晒されていたせいか、箱は錆だらけだった。

上部は蓋になっていて、網目で中が見える。

だが、蓋の下には板が敷かれていて、結局、中は見れなかった。

さらに箱には、
チョークのようなもので、何かが書かれていた。

恐らく、家紋的な意味合いのものだと思うんだが、
前後左右、それぞれの面に、いくつも紋所みたいなものが書き込まれていて、
それらは全て違っていた。

俺とAは極力触らないようにしていたが、
そんなこともお構いなしに箱に触るB。

どうやら地面に箱の底を直接固定してあるらしく、
大して重さは感じないのに持ち上がらなかった。

中身をどうやって見るのかと隅々まで調べると、
後ろの面だけ外れるようになっていることに気付いた。


「ここだけ外れるぞ」

Bが箱の一面を取り外し、
俺とAもBの後ろから中を覗き込んだ。

箱の中には、
四隅にペットボトルのような形の壺が置かれていて、
その中には得体の知れない液体が入っていた。

箱の中央に、
先端が赤く塗られた五センチぐらいの楊枝みたいなのが、
変な形で置かれていた。

/\/\>

こんな形で六本。

接する四ヶ所だけ赤く塗られてる。


「なんだこれ、爪楊枝か?」

「ここまで来てペットボトルと爪楊枝かよ、意味わかんねぇ」

俺とAは、
ペットボトルみたいな壺を少し触ってみたぐらいだったが、
Bはそれを手に取り匂いを嗅いだりしていた。

元に戻すと、Bは次に爪楊枝を触ろうと手を伸ばす。

ところが、汗をかいていたのか指先に一瞬くっつき、
離すときに形がずれてしまった。

その瞬間、
チリンチリリン!!チリンチリン!!

俺達が来た方向とは反対、
六角形地点のさらに奧にうっすらと見えている柵の方から、
物凄い勢いで鈴の音が鳴った。

三人とも「うわっ」と声を上げ、一斉に顔を見合わせた。


「誰だちくしょう、ふざけんなよ」
そう言うと、Bはその方向へ走りだした。

「馬鹿、そっち行くな」

「おい、やばいって」

慌てて後を追いかけようと、俺とAが身構えると、
Bは突然立ち止まり、前方に懐中電灯を向けたまま動かなくなった。

「何だよ、行くフリかよ」と、
俺とAがホッとして急いで近付くと、
Bの体が小刻みに震えだした。

「お、おい、どうした?」
そう言いながら、無意識に照らされた先を見る俺。

Bの懐中電灯は、
立ち並ぶ木々の中の一本、その根元のあたりを照らしていた。

その陰から、女の顔がこちらを覗いていた。

ひょこっと顔を半分だけ出して、
眩しがる様子もなく俺達を眺めていた。

上下の歯をむき出しにするように、
「いーっ」と口をあけ、その目は据わっていた。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

誰のものかわからない悲鳴と同時に、
俺達は一斉に振り返り、走った。

頭は真っ白になり、
反射的に、来た道へと走り出す俺達。

互いのことを確認する余裕もなく、それぞれが必死で柵へ走った。

柵が見えると一気に飛び掛かり、急いでよじ上る。

うえまで来たらまた一気に飛び降り、すぐに入口へ戻ろうとした。

だが、混乱しているのか、
Aが上手く柵を上れずなかなかこっちに来ない。


「A、早く」

「おい、早くしろ」

Aを待ちながら、俺とBはどうすればいいか分からなかった。


「何だよあれ、何なんだよ」

「知らねえよ、黙れ」

完全にパニック状態だった、
その時・・・・

チリリン!!チリンチリン!!

凄まじい大音量で鈴の音が鳴り響き、柵が揺れだした。

俺とBはパニック状態になりながら、周囲を見渡した。

入口とは逆の、山へ向かう方角から鳴り響き、
近づいているのか音と柵の揺れがどんどん激しくなってくる。


「やばいやばい」

「まだかよ、早くしろ」

俺達の言葉が余計にAを混乱させていたのは分かったが、
急かさないわけにはいかなかった。

Aは無我夢中に必死で柵をよじ上った。

Aがようやく上りきろうかというその時、
俺とBの視線はそこになかった。

がたがた、と震え、体中から汗が噴き出し、声を出せなくなっていた。

それに気付いたAも、
柵の上から俺達が見ている方向を見た。

山への方角にずらっと続く柵の先、
しかもこっち側に”あいつ”が張りついていた。

顔だけかと思ったそれは、
裸で上半身のみ、右腕と左腕が三本ずつあった。

それら腕で、器用に綱と有刺鉄線を掴んで、
いーっと口を開けたまま、巣を渡る蜘蛛のようにこちらへ向かってきていた。

「うわぁぁぁぁ!!」

Aがとっさに上から飛び降り、俺とBに倒れこんできた。

それにハッとした俺達は、
すぐに、Aを抱き起こし、一気に入口へ走った。

後ろは見れない、
前だけを見据え、ひたすら必死で走った。

全力で走れば三十分もかからないような道なのに、
何時間も走ったような気分。

入口が見えてくると、何やら人影が見えた。

「おい、まさか」

三人とも、急停止し、息を呑んで人影を確認した。

誰だかわからないが、何人かが集まっている、あいつではない。

そう確認できた途端に再び走りだし、
その人達の中に飛び込んだ。

「おい、出てきたぞ」
「まさか、本当にあの柵の先に行ってたのか?」
「急いで奥さんに知らせろ」

集まっていた人達は驚いた様子で、俺達に駆け寄ってきた。

何て話しかけられたのか、すぐには分からないぐらい、
俺達三人は頭が真っ白で放心状態だった。

そのまま俺達は車に乗せられ、
すでに深夜の三時をまわっていたにも関わらず、
行事の時などに使われる集会所に連れていかれた。

中に入ると、
俺の母親と姉貴、Aの親父、Bの母親が来ていた。

Bの母親はともかく、
普段、俺とはほとんど口を利かない俺の母親までその場所にいて、
俺を見るなり、泣いていた。

似たような環境のAも、
この時の親父の表情は、
今まで見たことのないようなものだったらしい。

そんな中、Bの母親が口を開いた。

「みんな無事だったんだね、良かった。」

そんな風に、優しく語り掛ける、Bの母親とは違い、
俺は母親に殴られ、Aも親父に殴られていた。

だが、今まで聞いた事のない暖かい言葉を掛けられた。

しばらくそれぞれが家族と接したところで、
Bの母親がまた話し始めた。

「ごめんなさい。今回の事はうちの主人、ひいては私の責任です。
本当に申し訳ありませんでした、本当に。」

そう言うと、何度も頭を下げた。

よその家とはいえ、
子供の前で親がそんな姿をさらしているのは、
俺としても複雑な気分だった。

「もういいだろう奥さん、こうしてみんな無事だったんだから」とAの親父が口を開くと、続いて俺の母親も、
「そうよ、あなたのせいじゃないわ」と言った。

その後、
ほとんど親同士で話が進められ、
蚊帳の外の俺達はぽかんとしていた。

時間が遅かったこともあり、
無事を確認しあって終わりという感じだった。

この時は何の説明もないまま解散した。

一夜明けた次の日の昼頃、俺は姉貴に叩き起こされた。

目を覚ますと、
昨夜の続きかというぐらい、姉貴の表情が強ばっていた。


「なんだよ」
姉貴
「Bのお母さんから電話、やばい事になってるよ」

受話器を受け取り電話に出ると、凄い剣幕で叫んできた。

「Bが、Bがおかしいのよ、昨夜あそこで何をしたの?
柵の先へ行っただけじゃなかったの?」

とても会話になるような雰囲気じゃなく、
いったん電話を切って俺はBの家へ向かった。

同じようにAも電話を受けたらしく、
二人でBの母親に話を聞いた。

話によると、Bは昨夜、家に帰ってから、
急に両手と両足が痛いと叫びだした。

痛くて動かせないからか、
両手と両足をぴんと伸ばした状態で倒れ、
その体勢で痛い痛いとのたうちまわっていたらしい。

母親が何とか対応しようとするも、
「いてぇ、いてぇ」と叫ぶばかりでどうすれば良いのか分からない。

必死で部屋までは運べたが、
ずっとそれが続いているので、
俺達はどうなのかと思い、電話してきたらしい。

話を聞いてすぐ、Bの部屋へ向かうと、
階段からでも叫んでいる声が聞こえた。

「いてぇ、いてぇよ、」と繰り返している。

部屋に入ると、やはり手足はぴんと伸びたままのたうちまわっていた。


「おい、どうした」

「しっかりしろ、どうしたんだよ」

俺達が呼び掛けても、
「いてぇよ」と叫ぶだけで目線すら合わせない。

俺とAは何が何だかさっぱり分からなかった。

一度Bの母親のところに戻ると、
さっきとはうってかわり、静かな口調で聞かれた。

「あそこで何をしていたのか話してちょうだい。
それで全部分かるの、昨夜あそこで何をしていたの?」

何を聞きたがっているのかは、
もちろん分かってたが、
答えるためにまた思い出さなきゃいけないのが苦痛となり、
うまく伝えられなかった。

というか、
あれを見たという記憶が衝撃的すぎて、
何が原因だったかというのが、
すっかり置いてきぼりになってしまっていた。

「何を見たかでなく、何をしたか」と尋ねる、Bの母親は、
それを指摘しているようだった。

俺達は何とか昨夜の事を思い出し、原因を探った。

「何を見たか」なら、俺達も今のBと同じ目にあっているはず。

「何をしたか」に関しても、
Bとほとんど同じ、行動を取っていたはず。

箱だってオレ達も触ったし、
ペットボトルみたいな物にも俺達は触れている。

後は、爪楊枝・・・

そうだ、爪楊枝だ。

あれにはBしか触っていないし、
形もずらしてしまい、元に戻していない。

俺達はそれをBの母親に伝えた。

すると、みるみる表情が変わり震えだした。

すぐさま棚の引き出しから紙を取出し、
それを見ながらどこかに電話をかけているようだった。

俺とAは様子を見守るしかなかった。

しばらく電話をした後、
戻ってきたBの母親は震える声で俺達に言った。

「こちらから出向けば、すぐにお会いしてくださるそうだから、
今すぐ帰って用意をしておいてちょうだい。
あなた達のご両親には私から話しておくわ。
何も言わなくても準備してくれると思うから、
明後日、またうちに来てちょうだい。」

意味不明だった。

誰に会いに、どこへ行くんだ?
説明を求めてもはぐらかされ、俺達はすぐに帰らされた。

俺が真っすぐ、家に帰ってみると、
両親からは何を聞かれるでもなく、
「必ず行ってきなさい」とだけ言われた。

意味がまったく分からないまま、
二日後に俺とAは、Bの母親と三人である場所へ向かった。

Bは、前日にすでに連れていかれたらしい。

ちょっと遠いのかな、ぐらいに思っていたが、
隣町ですらなく、何県も跨ぐほどの遠さだった。

新幹線で数時間かけ、さらに駅から車で数時間。

絵に書いたような深い山奥の村まで連れていかれた。

その村のまたさらに外れの方にある、
屋敷に俺達は案内された。

でかくて古いお屋敷で、すごい立派なもんだった。

Bの母親が呼び鈴を鳴らすと、
おっさんと女の子が俺達を出迎えた。

おっさんは、
その筋の人間みたいな、ガラの悪い、スーツ姿。

女の子のほうは、俺達より少し年上で、
白装束に赤い袴、いわゆる巫女さんの姿だった。

どうやら巫女さんの伯父らしいおっさんは、
普通によく耳にする名字を名乗ったのだが、
巫女さんのほうは、聞きなれない名字だか名前だかを名乗っていた。

とにかく、彼女の家や、
彼女の素性は極秘とのことらしい。

とりあえずここでは分かりやすいように、
彼女の名前を「葵」としておく。

その後、
だだっ広い座敷に案内された俺たち、

そこで、ものものしい雰囲気で話が始まった。

おっさん
「息子さんは今安静にさせてますわ。
この子らが一緒にいた子ですか?」

Bの母親
「はい、この三人であの場所へ行ったようなんです」

おっさん
「そうですか。君ら、わしらに話してもらえるか?
どこに行った、何をした、何を見た、出来るだけ詳しくな」

突然話を振られて戸惑ったが、
俺とAは何とか詳しくあの夜の出来事をおっさん達に話した。

ところが、爪楊枝の話になった途端、
「おいこら、今何って言った」と、
いきなりどすの効いた声で言われ、
俺達はますます状況が飲み込めず混乱してしまった。


「何ですか」

おっさん
「おめぇら、まさかあれを動かしたわけじゃねえだろうな?」

身を乗り出し、今にも掴み掛かってくる勢いで怒鳴られた。

すると葵がそれを制止し、
蚊の泣くようなか細い声で話だした。

「箱の中央に、小さな棒のようなものが、
ある形を表すように置かれていたはずです。
それに触れましたか、触れた事によって、
少しでも形を変えてしまいましたか?」


「はい、動かしました。形もズレてしまったと思います」


「形を変えてしまったのが誰なのか、覚えてらっしゃいますか?
触ったかどうかではなく、形を変えたかどうかです。」

俺とAは顔を見合わせ、Bだと告げた。

すると、おっさんは身を引いてため息をつき、Bの母親に言った。

「お母さん、残念ですがね、息子さんはどうにもならんでしょう。
わしは詳しく聞いてなかったが、あの症状なら他の原因も考えられる。
まさか、あれを動かしてたとは思わなかったのでね」

「そんなこと・・・」

それ以上の言葉もあったんだろうが、
Bの母親は言葉を飲み込んだような感じで、しばらく俯いていた。

口には出せなかったが、俺達も同じ、気持ちだった。

Bはもうどうにもならないとはどういう意味だ?
一体何の話をしてんだ?

そう問いたくても、声に出来なかった。

俺達の様子を見て、おっさんはため息混じりに話だした。

ここでようやく、あの日俺達が見たものの正体が判明した。

俗称は、なりじゃら、なりだら、かんかんじゃら、かんかんだらなど、
知っている人の年代や家柄によって、呼び方はいろいろあるらしい。

現在では「だら」という呼び方が一番多く、
おっさん達みたいな特殊な家柄では、
「かんかんだら」の呼び方が使われるらしい。

もはや神話や伝説に近い話。

人を食らう大蛇に悩まされていたある村の村人達は、
神の子として、様々な力を代々受け継いでいた、
ある巫女の家に退治を依頼した。

依頼を受けたその家は、
特に力の強かった一人の巫女を大蛇討伐に向かわせる。

村人達が陰から見守る中、
巫女は大蛇を退治すべく懸命に立ち向かった。

しかし、わずかな隙をつかれ、大蛇に下半身を食われてしまった。

それでも巫女は村人達を守ろうと様々な術を使い、必死で立ち向かった。

ところが、
下半身を失っては勝ち目がないと決め込んだ村人達はあろう事か、
巫女を生け贄にする代わりに村の安全を保障してほしいと、
大蛇に持ちかけた。

強い力を持つ巫女を疎ましく思っていた大蛇はそれを承諾。

食べやすいようにと村人達に腕を切り落とさせ、
達磨状態の巫女を食らった。

そうして、村人達は一時の平穏を得た。

後になって、巫女の家の者が思案した計画だった事が明かされる。

この時の巫女の家族は六人。
異変はすぐに起きた。

大蛇がある日から姿を見せなくなり、
襲うものがいなくなったはずの村で、次々と人が死んでいった。

村の中で、山の中で、森の中で。
死んだ者達はみな、右腕・左腕のどちらかが無くなっていた。

巫女の家族六人を含む十八人が死亡、
生き残ったのは四人だった。

おっさんと葵が交互に説明した。

おっさん
「これがいつからどこで伝わってたのかはわからんが、
あの箱は一定の周期で場所を移して供養されてきた。

その時々によって管理者は違う。

箱に家紋みたいなのがあったろ?
ありゃ今まで供養の場所を提供してきた家々だ。

うちみたいな家柄のものでそれを審査する集まりがあってな、
そこで決められている。

まれに、自ら志願してくる馬鹿もいるがな。

管理者以外には、かんかんだらに関する話は一切知らされない。

付近の住民には、いわくがあるって事と、
万が一の時の相談先だけが管理者から伝えられる。

伝える際には相談役、
つまりわしらみたいな家柄のもんが立ち合うから、
それだけでいわくの意味を理解するわけだ。

今の相談役はうちじゃねえが、至急って事で、
昨日うちに連絡がまわってきた」

どうやら、
一昨日、Bの母親が電話していたのは別のとこらしく、
話を聞いた先方は、Bを連れてこの家を尋ね、話し合った結果、
こっちに任せたらしい。

Bの母親は、俺達があそこにいっていた間に、
すでにそこに電話してて、
ある程度詳細を聞かされていたようだ。


「基本的に、山もしくは森に移されます。
御覧になられたと思いますが、六本の木と六本の縄は村人達を、
六本の棒は巫女の家族を、四隅に置かれた壺は、
生き残った四人を表しています。

そして、六本の棒が成している形こそが、
巫女を表しているのです。

なぜこのような形式がとられるようになったか。

箱自体に関しましても、いつからあのようなものだったか。

私の家を含め、
今現在では伝わっている以上の詳細を知る者はいないでしょう」

そう語った葵だったが、
今の時点での見解としては、
生き残った四人が、
巫女の家で怨念を鎮めるために、ありとあらゆる事柄を調べ、
その結果生まれた独自の形式ではないか、という事らしい。

柵に関しては、鈴だけが形式に従ったもので、
綱とかはこの時の管理者による独自のものだったらしい。

おっさん
「うちの者で、かんかんだらを祓ったのは過去に何人かいるがな、
その全員が三年以内に死んでんだ。ある日突然な。
事を起こした当事者も、ほとんど助かってない。
それだけ難しいんだよ」

ここまで話を聞いても、俺達三人は完全に置いてかれていた。
きょとんとするしかなかったが、事態はまた一変した。

おっさん
「お母さん、どれだけやばいものかは何となくわかったでしょう。
さっきも言いましたが、棒を動かしてさえいなければ何とかなりました。
しかし、今回はだめでしょうな」

Bの母親
「お願いします、何とかしてやれないでしょうか。
私の責任なんです、どうかお願いします」

Bの母親は引かなかった。

母親のせいだとは思えないのに、
自分の責任にしてまで頭を下げ、必死で頼み続けていた。

でも泣きながらとかじゃなくて、
何かを覚悟したような表情だった。

おっさん
「何とかしてやりたいのはわしらも同じです。
しかし、棒を動かしたうえで、あれを見ちまったんなら……
お前らも見たんだろう。
お前らが見たのが大蛇に食われた巫女だ。
下半身も見たろ、それであの形の意味がわかっただろ?」

俺とAは言葉の意味がわからなかった。
俺達が見たのは上半身だけのはずだ。


「下半身というのは何のことですか?上半身なら見ましたけど」

それを聞いておっさんと葵が驚いた。

おっさん
「おいおい、何言ってんだ、
お前らあの棒を動かしたんだろ?
だったら下半身を見てるはずだ」


「あなたがたの前に現われた彼女は、
下半身がなかったのですか、では、腕は何本でしたか?」


「腕は六本でした、左右三本ずつです。
でも、下半身はありませんでした」

俺はAに確認しながらそう答えた。

すると急におっさんがまた身を乗り出し、俺達に詰め寄ってきた。

「間違いねえのか、ほんとに下半身を見てねえんだな?」
「はい…」

おっさんは再び、Bの母親に顔を向け、笑顔を見せながら言った。

「お母さん、何とかなるかもしれん」

おっさんの言葉に、Bの母親も俺達も、
息を呑んで注目した。

二人は言葉の意味を説明してくれた。


「巫女の怨念を浴びてしまう行動は、二つあります。
やってはならないこととして、巫女を表すあの形を変えてしまう事。
見てはならないのは、その形が表している巫女の姿です」

おっさん
「実際には、棒を動かした時点で終わりだ。
必然的に巫女の姿を見ちまう事になるからな。
だが、どういうわけかお前らは、それを見てない。
動かした本人以外も同じ姿で見えるはずだから、
お前らが見てないならあの子も見てないだろう」


「見ていないとはどういう意味なんですか?俺達が見たのは…」


「巫女である事には変わりありません。
ですが、かんかんだらではないのです。
あなたがたの命を奪う意志がなかったのでしょうね。
かんかんだらではなく、巫女として現われた。
その夜の事は、彼女にとってはお遊戯だったのでしょう」

巫女とかんかんだらは同一の存在であり、
別々の存在でもある、という事らしい。

おっさん
「かんかんだらが出てきてないなら、
今あの子を襲ってるのは、葵が言うようにお遊び程度のもんなんだろう。
わしらに任せてもらえれば、長期間にはなるが何とかしてやれるだろう」

緊迫していた空気が初めて和らいだ気がした。

Bが助かるとわかっただけで充分だったし、
この時のBの母親の表情は本当に凄かった。

この何日かでどれだけ、Bを心配していたか、
その不安とかが一気にほぐれたような、そういう笑顔だった。

それを見ておっさんと葵も雰囲気が和らぎ、
急に普通の人みたいになった。

おっさん
「あの子は正式にわしらで引き受けますわ。
お母さんには後で説明させてもらいます。
お前ら二人は、一応葵に祓ってもらってから帰れ。
今後は、怖いもの知らずもほどほどにしとけよ」

この後、Bに関して少し話したのち、
俺達はお祓いしてもらってから帰った。

この家の決まりだそうで、
Bには会わせてもらえず、
どんな事をしたのかも分からなかった。

学校にもそれ以来姿を見せなくなり、
転校扱いになったのか、休学扱いになってたのかは知らんが、
これ以来一度も見てない。

まぁ死んだとか言うことはなく、
すっかり更正して今はちゃんとどこかで生活してるそうだ。

ちなみにBの親父は、
一連の騒動に一度たりとも顔を出してこなかった。

どういうつもりか知らんが。

俺とAも、わりとすぐ落ち着いた。

理由はいろいろあったが、
一番大きかったのは、やっぱりBの母親の姿だった。

ちょっとした後日談もあって、
たぶん一番大変だったはずだ。

母親ってのがどんなものか、考えさせられた気がした。

それにこれ以来、俺の家もAの家も、
両親の方から、少しずつ接してくれるようになった。

そういうのもあって、自然と馬鹿なことはやらなくなったな。

一応他に分かった事としては、
特定の日に集まってた巫女さんは、相談役になった家の人。

かんかんだらは、危険だと重々認識されていながら、
ある種の神に似た存在とされている。

大蛇が山だか森だかの、神だったようだ。

それで年に一回、神楽を舞ったり祝詞を奏上したりするんだと。

あと、俺達が森に入ってから音が聞こえてたのは、
かんかんだらは柵の中で放し飼いみたいになっているからなのだとか。

でも六角形と箱が封印の役割をしているらしく、
棒の形や六角形を崩したりしなければ、姿を見せる事はほとんどないそうだ。

供養場所は、何らかの法則によって、
山や森の中の限定された一部分が指定されるらしく、
入念に細かい数字まで出して範囲を決めているらしい。

基本的にその区域からは出られないらしいが、
柵などで囲んでる場合は、俺達が見たように外側に張りついてくる事もある。

分かったのはこれぐらい。

俺達の住んでるところからはもう移動したっぽい。

二度と行きたくないから確かめてないけど、
一年近く経ってから柵の撤去が始まったから、
たぶん今は別の場所にいるんだろな。


怖い話、実話「女性に憑くヤマノケ」

一週間前の話。

娘を連れて、ドライブに行った時のこと。

山道を進んでいた途中、
ドライブインでご飯を食べた。

その後、
娘を驚かそうと思い、
舗装されていない脇道に入り込んだ。

娘が怖がる様子が面白く、
ドンドンと奥へと進んでいった。

すると、
急に車のエンジンが停止した。

山奥で携帯の電波も届かず、
車の知識もない。

途方に暮れてしまったが、
だいぶ奥まで来てしまったこともあり、
歩いて引き返すとなると何時間掛かるか。

時間も遅い。

しょうがないから、
その日は娘と二人で車中泊をし、
翌朝、歩いてドライブインまで戻ることにした。

車内で寒さを凌ぐうち、
辺りは暗くなった。

夜中の山は明かりもなく、
音もしない。

そのまま時間だけが過ぎて行き、
娘も付かれて助手席で眠ってしまった。

俺も寝るか。

そう思い、眼を閉じると、
何やら聞こえて来る。

声なのか音なのか、
良く分からないが、

「テン、ソウ、メツ」

と、何度も繰り返して聞こえる。

最初は、
耳鳴りか何かだと思っていたが、
目を瞑っている間にも、
その音はドンドン近づいてくる。

たまらず俺は目を開けた。

すると、
白くのっぺりとした”何か”が、
不気味な動きをしながら、
車に近づいてくる。

あまりの恐怖に、
叫びそうになったが、
なぜかその時は、
隣で寝ている娘を起こさないようにと、
変な気が回り、叫ぶことも逃げ出すことも出来なかった。

そんな俺の気持ちをよそに、
その謎の物体は、ドンドンと車に近づいてくる。

しかし、車の近くまで来るとそいつは、
車の脇を通り過ぎて行った。

その間もずっと
「テン、ソウ、メツ」という、
音が耳に響いていた。

そして、
音が遠ざかって行き、
後ろを振り返ってみても、
そいつの姿がなかったので、
娘の方に向き直った

すると、
そいつが助手席の窓にいた。

近くで見ると、
そいつは胸のあたりに顔が付いていて、
恐ろしい顔でニヤニヤ笑っていた。

俺は、恐怖を通り越し、
娘に近づくそいつに対して、
怒りが湧いてきた。

「この野郎!」

俺がそう叫ぶと、そいつは消え、
俺の怒号にビックリしたのか、
娘が飛び起きた。

俺は娘に謝ろうと、
娘の方に顔をやると、

「はいれた、はいれた、はいれた、はいれた、
はいれた、はいれた、はいれた、はいれた。」

と、娘がブツブツ言っていた。

ヤバイ。

俺は、直感でそう思い、
一刻もこの場を離れるため、
ダメ元で車のエンジンをかけた。

すると、車のエンジンがかかった。

すぐさま俺は、
車を発進させ、その場を後にする。

その間もずっと娘は、
ブツブツつぶやいていたが、
どうすることも出来ず、

とにかく、
人通りのある所に出ようと思った俺は、
一心不乱で車を走らせた。

ようやく町の明かりが見えてきて、
少しだけ安心したが、

娘のつぶやく内容が、
「はいれた、はいれた」
から、
「テン、ソウ、メツ」に変わっていた。

そうつぶやく娘の顔も、
全く別の生き物のようだった。

どうすれば良いか分からなかった俺は、
何を思ったのか、目についた寺に駆け込んだ。

まだ夜中だったが、
明かりが灯っていたので、
俺は娘を引きずりながら、
呼び鈴を鳴らした。

すると、
住職らしき人が現れ、
娘の姿を見るやいなや、
驚いた顔をしながらも、

「何があった?」

と、俺に言ってきた。

俺は事の顛末を住職に話すと、
少し残念そうな顔をしながら、

「気休め程度にしかならないが」

と言いながら、

御経を上げ、
娘の肩や背中をバシバシ叩き出した。

その後、
まだ暗いこともあり、
住職が泊っていけと言うので、
泊めてもらうことにした。

その間も、
娘は変わらず、ずっとブツブツ呟いている。

住職から、
娘は「ヤマノケ」というモノに憑かれたらしく、
49日経っても、まだこの状態が続くのであれば、
一生このまま、正気に戻ることはないのだと言われた。

そして、
そうならないために、
娘を預かり、なんとかヤマノケを追い出すよう、
努力をしてみる、

そう住職から言われた俺は、

妻に電話をし、
嘘みたいな話だったが、
なんとか信じてもらった。

更に住職が言うには、
「ヤマノケ」は女性に憑依するらしく、
もしあのまま家に帰っていたら、
妻にも被害が及んでいたという。

その日から一週間。

娘は、未だに住職の元にいる。

俺は毎日様子を見に行っているが、
もうあの頃の娘の面影はなくなっていた。

ずっとニヤニヤした顔で俺を見るその姿に、
娘ながら、俺は恐怖を覚えていた。

いつになった娘は元に戻るのだろうか。

もしかしたら、一生戻らないのかもしれない。


本当にあった怖い話「小学校の頃の歌本」

僕はたまたま寄った古本屋で、

小学校の時に使ってたのと同じ歌の本を見つけた。

あまりにも、
懐かしい気分を感じ、
その本を思わず購入。

「あの青い空のように」
「グリーングリーン」

といった、
当時自分が好きだった歌が、
昔と変わらず掲載されていた。

それを家に持ち帰り、
懐かしみながら1曲1曲、
歌ってみた。

そして、
ページをめくると、
当時一番好きだった歌

「気球に乗ってどこまでも」

を見つけた。

まだ残っていることに、
嬉しさがこみ上げたが、
そのページの右下には余白があり、
そこにいたずら書きがされていた。

その絵は、
いかにも小学生が書きました、
といったタッチで、男の子と女の子が描かれていた。

男の子には
「さとしくん」とあり、
背中には数字の3。

女の子の方には何も書いてなかった。

僕は少しニヤけてしまった。

僕の名前もさとしだったからだ。

ふと気になり。

購入した歌本の名前を見てみた。

そこには、
元々、この本の持ち主と思わしき人の名前が、
薄っすらと書かれていた。

ハッキリとは読み取れないが、

〇下×子

と書かれていた。

小学生の時、
それと似た名前の女の子が、
クラスに二人いた。

一人は、

木下洋子。

もう一人が、

竹下敦子。

木下の方は名前は覚えているものの、
顔は全く思い出せなかった。

もう一人の竹下。

この女の子のことは、
今でも覚えている。

なぜなら、
その女の子は、
僕の初恋の相手だったからだ。

そして僕は、
あることを想像して、
少しドキっとした。

この歌本を買った古本屋も、
当時通っていた小学校から遠いのも、
こんな本は日本中、どこにでもあることも分かっている。

でももし、
僕の初恋の相手、
竹下敦子が、小学校当時、
僕のことを想い、落書きしていたのだとしたら。

なんだか、
甘酸っぱい気持ちになりながら、
次のページを開いた。

そこには

「大きなのっぽの古時計」

が掲載されていた。

そして、
そのページの余白にも、
先ほどと同じように落書きがされていた。

男の子と女の子が、
テーブルで一緒にご飯を食べている絵だった。

テーブルには、
ご飯とお味噌汁、
そして、お魚が描かれていた。

更にページをめくると、

そこには、
男の子と女の子、
そして赤ん坊の絵が描かれていた。

次のページでは、

これまでと同じように、
男の子と女の子が描かれているが、
女の子の方の顔がぐちゃぐちゃに、
黒く塗り潰されていた。

自分でやったのだろうか。
それともイジメにあったのか。

次のページには、

男の子は描かれておらず、
一人女の子が泣いている様子が描かれていた。

そして、
テーブルの上には、
虫のようなものが描かれていた。

一体、この絵は何なのだろうか。

どんどん引き込まれていく。

次のページには、

男の子も女の子もそこにはおらず、
葬式の祭壇のようなものだけが描かれていた。

この絵を描いた人は、
一体何を考えていたのか。

そして、次のページをめくると、
そこには何も描かれていなかった。

つまり、
さっきの葬式の絵が最後だった。

ふと気になり、
小学校の頃のアルバムを引っ張りだしてみた。

初恋の相手、竹下敦子。

小学校の頃とは言え、
初恋の相手。

今でも見ると、
多少は胸がドキドキする。

そして、もう一人、
木下洋子を探す。

しかし、
木下洋子という人物は、
卒業アルバムのドコを探しても、
写っていなかった。

おかしい。

自分の記憶が確かなら、
木下洋子という生徒がいたはず。

あまりにも気になったので、
当時PTAで役員をやっていた母親に、
木下洋子について聞いてみた。

すると、

「覚えているわよ。でもあの子…
5年生の時に、亡くなったでしょう。事故で」

そうだ。

確か、同級生の子が一人、
事故で亡くなっており、それが木下洋子だった。

しかし、母親は続けてこう言った。

「でも、本当は事故じゃなくて、首つりだったらしいわよ。
それを変な噂が立たないよう、事故扱いにしたんだって。」

初耳だった。

そして、嫌な予感がした。

すぐさま、
同級生の田中に電話を掛け、
当時のことを覚えているか聞いた。

すると田中は、

「覚えているよ。」

と言った。

そして、田中も、
木下の死の真相について知っていた。

「そんなことよりも、お前って未だに巨人ファン?
子供の頃、いっつも長嶋監督の背番号3番の服着てたよな。」

背筋がゾッとした。

この本は、間違いなく木下洋子のものだ。

そして、
書かれていた男の子は、
間違いなく僕。

田中「俺たち…あの子にいつも悪さしてたよな。」

僕 「え?」

田中「覚えてない?顔に墨汁ぶちまけたりさ。」

田中「お前なんか、あの子の給食に毛虫入れてたろ。」

僕 「俺が?」

田中「あぁ」

僕はすっかり忘れていた。

小学校の頃、
僕が友達と、木下洋子にしたことを。

そして、木下洋子が亡くなっていたことを。


本当にあった怖い話「2度聞こえた車のドア音の理由は…」

僕の家は母子家庭で、
母が仕事から帰って来るのは、
いつも深夜だった。

その間、僕は家で勉強をして過ごすことが多かった。

その夜も帰りを待っていたら、
母から電話がかかって来た。

「今から帰るけど、何か買ってくるものある?」

「別にないよ。」

そう言って、電話を切った。

しばらく経ち、
牛乳が切れていたのを思い出した僕。

ついでに買ってきてもらおうと、
母に着信履歴から掛けなおした。

しかし。

しばらく待っても、
母は電話に出なかった。

「運転中かな?」

そう思った僕は、
諦めて電話を切ろうとした。

が、その時。

電話が通話中へと変わった。

僕「もしもし。お母さん?」

母「すー。すー。」

電話は繋がったものの、
母の声は聞こえて来ず、
電話の向こうから寝息のようなものだけが聞こえて来た。

僕「おーい、お母さん!聞こえてないの?おーい。」

母「すー。すー。」

相変わらず、
電話の向こうから聞こえて来るのは、
鼻息のような音だけで、

車の走行音や、人の話し声などは、
一切聞こえてこなかった。

僕「電話の不具合?トンネルを走行中?」

少し疑問に思ったものの、
いくら話しかけても、母からの応答がないので、
困惑しながらも、電話を切った。

その後も色々と考えたが、
いくら考えても分からないので、
もう一度、電話を掛けてみることに。

しかし、今度は母が電話に出ることはなかった。

僕「やっぱり、運転中だったのか?」

そう思い、
再び電話を切った僕は、
勉強するために机に向かう。

その時、
ふと、頭の中を嫌な可能性が過り、
胸の鼓動が早くなった。

僕「もしかして、事故に遭ったのでは…?」

通話ボタンを押すことは出来ても、
会話をすることが出来ない。

事故に遭い、
車に押しつぶされた状態で、
もしかしたら助けを呼べない状態なのではないか。

もし、そうだとしたら。

家に帰るルートは山の麓を通る上、
人目に付きにくい場所。

どうしよう。

かと言って、
警察に電話をしても良いものか。

それとも、
今から自分で探しに行くか。

焦り、胸の鼓動が早くなった。

そして、
いても経ってもいられず、
母を探しに行くことを決めた。

その瞬間。

「ブゥーン。」

車の音が聞こえて来た。

僕「良かった。そりゃ、そうか。」

自分の早とちりに、
少し恥ずかしい気持ちにもなったが、
母が無事で安堵した。

そして、
母が車を降りたその後、

「バタン、バタン。」

僕「ん?」

少し不思議に思った。

いつも、
母が車を降りるときは、
荷物を持っていなければ、
ドアの開閉音は1回のはず。

なのに、
荷物を持っていないはずの母が、
車のドアを2度も開け閉めするのは珍しい。

それでも、
その時は、安堵の方が強く、
母を出迎えに玄関へと出向いた。

僕「お帰り。」

母「ただいま。」

母の荷物は、
いつもと同じようにバッグ1個だった。

そして、
二人で居間に行き、
さっき電話をしたことを母に伝えると、
運転中で気付かなかったらしい。

それでも、
一度は通話中になったのを不思議に思ったが、
それよりも先に、母が話しだした。

「そう言えばさ。
あんた、○○川って知ってるでしょ?」

「この前、一家惨殺事件があって、死体が上がった川。」

「今日、帰りに、
その○○川の沿いを通って帰ってきたのよ。」

「すると、ちょうどその川の沿いに差し掛かった時にね、
車の助手席のシートベルトランプが点灯したのよ。」

「誰も助手席に乗ってないのにね。
こういう話、好きだっだでしょ?」

僕はゾッとした。

そして僕は母に尋ねた。

僕「さっき、車から降りる時、ドア2回開け閉めしたよね?」

母「いいえ。1回しか開け閉めしてないわよ。」


背筋も凍る怖い話「八尺様」

親父の実家は、自宅から車で二時間弱くらいのところにある。

農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、
高校になって、バイクに乗るようになると、
夏休みとか冬休みなんかには、よく一人で遊びにいっていた。

じいちゃんとばあちゃんも
「よく来てくれた。」
と、喜んで迎えてくれたしね。

でも、最後に行ったのが、
高校三年に上がる直前だったから、
もう10年以上もいっていないことになる。

決して、
「行かなかった」のではなく、
行けなかったんだ。

それは、春休みに入ったばかりのこと。

いい天気に誘われて、
じいちゃんの家に、バイクでいったんだ。

まだ寒かったけど、
じいちゃんの家の庭先で、しばらくくつろいでいた。

そしたら、

「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」

と、変な音が聞こえて来た。

機械的な音じゃなく、
人が発しているような感じがした。

それも、
濁音とも、半濁音とも、
どちらにもとれるような感じだった。

何だろうと思っていると、
庭の石垣の上に、帽子があるのを見つけた。

石垣の上に置いてあったわけじゃない。

帽子は、
そのまま横に移動し、
垣根の切れ目まで来ると、
一人女性が見えた。

まぁ、帽子はその女性がかぶっていたわけだ。

その女性は白いワンピースを着ていた。

でも、石垣の高さは、
二メートルくらいある。

その石垣から頭を出せるって、
どれだけ背の高い女性なんだ。

驚いていると、
女はまた移動して、
視界から消えた。

そしていつのまにか、
「ぽぽぽ」という音も、
聞こえなくなっていた。

その時は、
その女性が、厚底のブーツを履いていたか、
背の高い男性が女装していたか、
ぐらいにしか思わなかった。

その後、
居間でお茶を飲みながら、
じいちゃんとばあちゃんにさっきのことを話した。

「さっき、庭先で、大きな女性を見た。
男が女装でもしてたのかな。」

その時は、

じいちゃんも、ばあちゃんも、
大して興味のなさそうな、
素っ気ない返事だった。

でも、

「その女性、庭の石垣よりも背が高くて、
「ぽぽぽ」みたいな、変な音を出してた。」

そう俺が言った瞬間、
二人の表情が変わった。

その後は、

「いつ見た」とか、
「ドコで見た」とか、
「どれぐらいの背丈だった」など、

じいちゃんから質問攻めにあった。

その気迫に押されながらも、
自分が見たままに正直に答えると、
じいちゃんは黙り込んで、どこかに電話を掛けだした。

少し離れた所で話していたので、
何を話しているのか、
はっきり聞こえなかったが、

ばあちゃんが、心なしか、
震えている様にみえた。

じいちゃんは電話を終えると、
俺に向かって、

「今日は家に泊っていけ。
いや、今日は帰すわけにはいかない。」

と言った。

その瞬間、何か気に障ることでも、
言ったのだろうかと思ったが、
思い当たるフシがなかった。

背の高い女を見たぐらいで、
何をそんなに焦っているのか、
理解が出来なかった。

するとじいちゃんは、

「ばあさん、後は頼む。
俺はAさんを迎えに行ってくる。」

そう言い残すと、
軽トラックでどこかに出かけていった。

俺は恐る恐るばあちゃんに、
一体何が起こっているのか聞くと、

「八尺様に魅入られてしまったようだ。
でも、じいちゃんが何とかしてくれる。
あんたは心配せんでええ。」

そう震えた声で語った。

ばあちゃんは続けて、

「この辺りには八尺様という厄介なモノがおっての。
その大きさは名前の通り、八尺もあるんじゃ。」

と言い、

俺が聞いた音は、
八尺様の笑い声とのことだった。

人によって、
八尺様の見た目は違うらしいが、

とにかく、背が大きいこと。
それと、薄気味悪い笑い声をしていること。

この二つは共通しているらしい。

それと、

八尺様は、
この地域のお地蔵様に封印されているから、
他の地域に現れることはないが、

この地域の人間は、
八尺様に魅入られると、
数日のうちに取り殺されてしまうということも、
ばあちゃんは語っていた。

最近は被害も出てなく、
最後に取りつかれて人が亡くなったのは、
15年も前の話なのだとか。

そんな話を聞いた俺だったが、
あまり怖さも感じなかった。

当然と言えば当然だ。

そんな話を信じるほど、
俺も子供ではなかったからな。

そうこうしている内に、
じいちゃんが、一人の老婆を連れて戻って来た。

「えらいことになったのう。
今はこれを持っておきなさい。」

老婆はそう言うと、
俺に御札を渡してきた。

その後、
じいちゃんと二人で二階へと、
上がって行って、何かをしている様子だった。

ばあちゃんは、
ずっと俺と一緒にいてくれて、
何をするにしても付いてきた。

正直、この辺から、
本当にやばいのでは、と思ってきたが、
俺にはどうすることも出来なかった。

しばらくすると、
俺は二階に上がらされ、
一室へと入れられた。

その部屋は、
窓が全て新聞紙で目張りされていて、
その上に大量の御札が張られていた。

四隅には盛り塩が置かれ、
木箱のようなものの上に、
仏像が乗せられていた。

更には、
どこから持ってきたのか、
子供が用を足す「オマル」が用意されていた。
「もうすぐ、日が暮れる。
明日の朝まで、ここから出るな。
わしもばあさんも、お前に話しかけることもなければ、
この部屋に来ることもない。」

「明日の朝7時。
その時になったら、この部屋から出ろ。
家にはわしから連絡しておく。」

あまりのじいちゃんの気迫に、
俺はただただ頷くしかなかった。

続けてAさんが、

「今の話を必ず守ること。
御札もずっと持っておきなさい。
何かあれば、仏像にお願いするんじゃ。」

と言った。

その後、
部屋に閉じ込められた俺は、
ただひたすら、布団にくるまっていた。

ばあちゃんが用意してくれた、
ご飯やお菓子も食べる気になれず、
恐怖で震えていた。

そうこうしている内に、
俺はいつの間にか眠りについていた。

ハッと目が覚めた時。

付けっ放しだったテレビを見ると、
深夜の1時過ぎだった。

どうせなら、
朝7時まで眠っておけば良いものの、
なぜか目が覚めてしまった。

嫌な時間に起きたな。

そう思っていると、
部屋の窓ガラスをコツコツと叩く音がした。

明らかに人が叩いているような音だったが、
きっと風のせいだ。

そう思い込むことにして、

気を紛らわせようと、
テレビの音量をデカくした。

そんな時、

「おーい、大丈夫か。怖けりゃ、無理するなよ。」

じいちゃんの声が聞こえてきた。

俺は思わず、
ドアに近づき、
ドアを開けようとした。

…が、その瞬間。

昨日のじいちゃんの言葉を思い出した。

「何があっても、部屋から出るな。
わしから話しかけることも来ることもない。」

俺は、ドアから離れた。

「どうした、出てきてええんじゃぞ。」

間違いなく、
じいちゃんの声に聞こえる。

それでも、
俺は、なんとなく、
その声がじいちゃんの声ではないと感じた。

怖くなった俺は、
すぐさま仏像の前に座り、
御札を握りしめ、

「助けてください。お願いします。」

そう心の中で、
必死に願った。

その時。

「ぽぽ。ぽ。ぽぽ。」

昨日聞いた、あの声だ。

そして、再び、
窓ガラスをコツコツと叩く音が聞こえた。

八尺様が、
手を伸ばし、窓を叩いているんだ。

俺は一心不乱に、
仏像の前に座り続け、
必死に願った。

「助けてください。お願いします。」

とてつもなく長い夜に感じた。

それでも、
ふと、気が付くと、
時刻は朝の7時過ぎになっていた。

どうやら俺は、
眠ったか、気を失ってしまっていたようだ。

なぜか、
部屋の隅に置かれていた盛り塩は、
黒く変色していた。

そして俺は、
恐る恐る部屋を出た。

すると、
そこには、心配そうな顔をした、
ばあちゃんの姿があった。

ばあちゃんは、
俺を見ると涙を流し、
安堵していた。

1階に降りると、
心配で駆け付けたのか、
親父も来ていて、外では、
じいちゃんが、俺を手招きしていた。

「早く車に乗れ。」

どこから持ってきたのか、
そこにはワンボックス車が1台あり、
何人かの男たちが集まっていた。

俺が車に乗ると、
ゾロゾロと他の男たちも車に乗り、
車内はパンパンになった。

「これからある所に向かうが、
お前は俺がいいと言うまで、目を瞑っていろ。
俺達には見えないが、お前には見えてしまうからな。」

そう隣に座る見ず知らずのおじさんが言った。

そして、
先頭をじいちゃんが運転する軽トラ。
次いで、俺を乗せたワンボックス。
最後尾に、親父が運転する乗用車、

という列で、走り出した。

なぜか、
車列のスピードは異常に遅く、
20キロ程度しか出ていないように感じた。

「ここが、踏ん張りどころじゃ。」

ワンボックスの助手席に座った、Aさんが、
そういうと、何やら念仏のようなものを唱え始めた。

「ぽぽ、ぽ、ぽぽぽ。」

あの声だ。

その瞬間、俺は、
Aさんからもらった御札を握りしめ、
下を向いたまま、眼を閉じた。

しかし、
怖いもの見たさからか、
俺は薄目を開けて、車の外を見てしまった。

すると…

車のスピードに合わせて、
並走するワンピース姿の女性がいた。

顔は車よりも高い位置にあり見えなかったが、
車を覗き込むような仕草を見せた。

「うわっ。」

俺は思わず声を上げた。

「見るな!」

そう隣の男が声を荒げた。

その瞬間、
俺は、すぐさま目をつぶり、
御札を強く握りしめた。

「コツ、コツ、コツ」

車の窓を叩く音が聞こえて来る。

周りの人たちも、
姿かたちは見えなくても、
その音だけは聞こえているようだった。

更に、Aさんが強く念仏を唱える。

やがて、
その音と声は聞こえなくなり、

「これで、切り抜けられたな。」

Aさんが小さく漏らした。

それまで黙っていた、
周りの人たちも、安堵の声を上げ、

「良かったな。」

そう俺に言ってきた。

そして、車列は、来た道を戻り、
親父とじいちゃんは、
来てくれた周りの男たちに、
深々と頭を下げていた。

彼らは皆、
俺や親父、じいちゃんと、
遠い血縁関係の人間らしく、

八尺様に、
魅入られた俺を、
カモフラージュするために、
集まってくれたらしい。

これはもう少し、
後になって知ったことだが、

最悪の場合、
親父かじいちゃんが、
身代わりになるつもりだったらしい。

それから数年経ち、
じいちゃんが亡くなった。

俺は、葬式に出たかったが、

「わしが亡くなっても、あいつを絶対に呼ぶな。」

そうじいちゃんが、
周りに強く言い聞かせていたため、
俺は葬式に出られなかった。

一度、
八尺様に魅入られた俺は、
またいつ取りつかれるかも、
しれない、というのが理由らしい。

しかし、
それから数年経ち、
恐るべき事実が判明した。

これは、
親父から聞いた話なのだが、
最近、八尺様を封じていた、お地蔵様が、
壊されてしまったらしいのだ。

これまで、
あの地域に閉じ込められていた、
八尺様が、自由になる。

もし、そうだとすれば…

一度、魅入られてしまった俺は、
一体どうなるのだろうか。

今のところは大丈夫だが、
またいつか、

「ぽぽ、ぽ、ぽぽぽ」

という声が聞こえてくる日が来てしまうのだろか。

恐怖で背筋がゾッとしたが、

俺には、
ただ、八尺様に魅入られないよう、
願うことしか出来ないのだ…


※この怖い話は興味本位で見ないでください※自己責任でお願いします

あらかじめお断りしておきますが、
この怖い話を読まれたことで、その後、
何が起きても保証しかねます。

※自己責任の下で読んでください。
※保証、何か合っても責任は一切持ちません。

5年前、私が中学生だった頃
一人の友達を亡くしました。

表向きの原因は精神病でしたが、
実際はとあるモノに憑依されたからです。

私にとっては、
忘れてしまいたい記憶の一つですが、
先日古い友人と話す機会があり、

あの出来事を思い出させられてしまったのです。

文章として残すことで、
少しは客観的に見れると思ったのもあり、
ここに綴りたいと思います。

私たち(A、B、C、D、私)5人は、
皆、家業を継ぐことになっていたこともあり、
高校受験をする周りを横目に暇を持て余していました。

度々、学校もズル休みしていた私たちですが、
そんなある日。

友人のAとBが、
こんな話を聞いてきました。

改築したばかりの家の主人が、
自ら命を断ち、その後、一家は離散し、
空き家になっているというもの。

学校をサボっていた私たちにとって、
良いたまり場になるのではないかと考え、
早速、翌日にその場所へと向かいました。

行ってみると、
とても立派な屋敷で、無断で立ち入るのに、
少し躊躇しましたが、

AとBは気兼ねせず、
どんどんと中に入って行きました。

最初は、
たまり場として利用しようと考えていた私たち。

しかし、
それもすぐに飽きてしまい、
家の中の探索を始めました。

早速、あれこれ家の中を物色。

するとCが、

「あれ、何や?」と、

探索中の部屋の壁の上に何かを見つけました。

見た感じ、
学校の音楽室などについている、
小さな二つの窓。

その部屋には、
扉もあったのですが、
その扉は本棚で塞がれていて、
隣の部屋に行くにはその窓を通るしかありません。

冒険心から私たちは、
Cを肩車、その窓の一つを開いてみました。

すると、その窓から、若干の悪臭が。

この時に、
疑問を持つべきだったと今では思いますが、
その時は、若気の至りもあり、
無理やりにその部屋に入った私たち。

部屋の中はカビだらけ。

雨漏りもしているのか、じめっとした感じ。

そして、
部屋の隅っこには、
小さな机が置かれていました。

「なんやこれ、気持ち悪い。」

Aの言葉に視線を送った私。

その目線の先には、
写真入れに入れられた、
真っ黒に塗りつぶされた写真が。

そして、
Aがそれを持ち上げた瞬間、

その中から、
束になった髪の毛と、
一枚の紙が落ちてきました。

よく見ると、その紙は御札でした。

その瞬間、
なぜか背筋が凍るような感覚を受けた私たち。

「急いで逃げよう!」

掛け声と共に、
その場を後にしようと、
窓によじ登るB。

しかし、
腐りかけた壁紙が崩れてしまい、
よじ登ることが出来ません。

しかも、
その剥がれた壁紙の裏側には、
大量の御札が貼られていたのです。

パニックになった私たち。

一刻も早くこの場を去ろうと、
Bがよじ登り、そのお尻を押し込む私とD。

すると、突然後ろから、

「いーーー、いーーーー。」

という奇声が聞こえてきました。

あまりの恐怖に、
振り返ることが出来ませんでしたが、
その奇声の正体がAなのは分かっていました。

Aは何かに祟られた。

私たちは漠然とそう感じました。

とにかく、
この場を一刻も早く去りたかった私たち。

BとD、
そして私の3人が、
なんとかして別の部屋に移りました。

そして、
動きのトロイCを引っ張り出そうとすると、

「イタイ、イタイ。」

「引っ張るな。」

向こうの部屋で、
Aに引っ張られているのか、
Cは痛がりながら足え壁を何度も何度も蹴っていました。

「近くの神社から神主さん呼んで来い!」

Aを引っ張るDが後ろを振り向き、
Bにそう言いました。

すぐさまBは裸足で走り出す。

そして、
私とDの二人でCをなんとか引っ張り出すと、
Cの足にはクッキリと歯形が残っていました。

恐らくAに噛まれたのでしょう。

そこには唾液がベッタリ。

部屋の向こうでは、
相変わらずAが奇声を上げ、

私たちは恐怖から、
窓の向こうから部屋を覗くことも出来ずにいました。

私たちが呆然としていると、

「お前ら、何やってんだ!」

物凄い形相の神主さんを連れ、
涙で顔がグッショリしたBが戻ってきました。

「お前らは、今すぐここから出て、
社務所のヨリエさんに見てもらえ。」

神社の社務所に行くと、
中年のおばさんが私たちを待っていました。

こっぴどく怒られたような気もしますが、
安堵からか、その後のことは、
正直あまり覚えていません。

その日から。

Aが学校に来なくなりました。

そして私たちは、
山の裏の屋敷には、
絶対に行くなと言われました。

あんな恐怖体験をした私たちは、
それに懲りたのか、

その日から、
おとなしく過ごすように。

そして、学校の期末試験が終わったある日、
生活指導の先生から呼び出しを受けた私。

これまでのことで、
何か怒られるのだろうかと思った私ですが、
行ってみると、

そこには生活指導の先生の姿はなく、
BとD、そして神主さんがいました。

すると、
神主さんから衝撃の事実が告げられました。

「言いにくいけどな。Cが死んだ。」

あまりの発言に言葉を失った私。

神主さんが言うには、
昨日、授業をサボったCが、
こっそりとAの様子を見に、神社に訪れたとのこと。

そこでAを見たCが、
白目をむいてそのまま帰らぬ人になったというのだ。

意味が理解できなかった私とBとCでしたが、
続けて神主さんが、

「いいか。AとCのことはもう忘れろ。
”アレ”は、覚えているヤツに憑依する。
だから、全て忘れろ。それと、後ろ髪は伸ばすな。」

そういうと、私たちは帰されました。

この瞬間、
私たちのその後の人生は大きく変わりました。

卒業後に、
家業を継ぐという話はなくなり、
私とBとDはそれぞれ別の県に出ることに。

私は、1年遅れで、隣の県の高校に入ることができ、

これまでのことを忘れて、
自分の生活に没頭しました。

髪は短く刈り上げていましたが、
坊主にするたびに、あの時のことを少し思い出し、
いつアレが私の元に来るか、
ビクビクしながらの3年が過ぎました。

そして、その後は大学に進学。

そんな時、
私の元に、祖父の訃報が舞い込んできました。

過去の出来事を知っていた父親ですが、
初盆ぐらいは帰って来いとのこと。

私は元々、
おじいちゃん子だったこともあり、
せめて、初盆ぐらいはと思い、
久々に実家に帰ることにしました。

久しぶりに帰って来た地元。

駅の売店で、
飲み物でも買おうかと立ち寄ると、
そこで、中学時代の彼女が、売り子をしていました。

すると、
私の顔を見るなり、
急に泣き出したのです。

彼女は泣きながら、
BとDが死んだことを私にまくしたてました。

Bは卒業してまもなく、
下宿先の自室で、首を吊ったそうです。

そして、
Dは、パンツ1枚で笑いながら歩いている姿が目撃されており、
その後、自ら命を絶ったとのこと。

そして、その遺体の頭部は、
まるで鳥がむしったかのように、
髪の毛が抜かれていたらしい。

私は、自分の運命を呪いました。

と、同時に、
この世で”アレ”の存在を覚えているのは、
もう私だけしかいないのではないか、
そんなことが頭をよぎりました。

そこから先は頭が真っ白で、
どう実家まで帰ったかも覚えていません。

そして、実家に帰ると、
家には誰もいませんでした。

後で知ったことですが、
私の地方には、忌廻しという習慣があり、

強い忌み事のあった家は、
初盆を奈良のお寺で行う風習があったのです。

そう。

私は、”アレ”に連れてこられたのです。

それからの3日間。

私は高熱が続き、実家で寝込んでいました。

さすがの私も死を覚悟し、
白い服をまとい、仏間で寝泊まりをすることに。

すると、3日目の夜。

夢にAが出てきました。

白目を向き、骨と皮だけのA。

A「後はお前だけやな。」

私「うん」

A「お前もこっちに来い」

私「嫌だ」

A「Cが会いたがってるぞ」

私「嫌だ」

A「お前が来ないと、Cがかわいそうだ」

A「あいつは地獄でずっとリンチされてるんだ」

私「地獄がそんな甘いわけないだろ」

A[ははは、地獄っていうのは…]

と、ここで目を覚ましました。

あまりの恐怖でしたが、
私はここで一つの考えに至りました。

今”アレ”のことを知っているのは私だけ。

だから、”アレ”に憑依されるのは、
私しか候補がいないのではないか、と。

なら、”アレ”の話を、
多くの人にすれば、私が憑依される確率は、
グッと下がるのではないか。

ここまでの長文、申し訳ありませんでした。

詳細を話さなければ、
これを聞いた人の記憶には、
残らないと思ったので、
詳しく話させていただきました。

もし、アレに憑依されるのが嫌なのであれば、
多くの方にこの話をされることをオススメします。

私のように。


意味が分かると怖い話「押入れの包丁女」解説付き

ある所に、
一人暮らしをしていた大学生の男がいた。

その男は、
ごく普通のアパートに住んでいたのだが、
たまにおかしなことが起こった。

大学から帰ってくると、
カーテンの形やゴミ箱の位置などが、
微妙に変わっていたのだ。

それに加え、

最近は、
誰かにつけられている様な気もしていたその男は、
流石に気味が悪くなり、友人に相談することにした。

男は友人に、
警察に相談しようか迷っていると話したが、
その友人は、

「なら、大学に行っている間、
ビデオカメラで部屋を隠し撮りしておいて、
もし、ストーカーが部屋に入っていたら、
そのテープを持って、警察に行けば良いんじゃない?」

と、語った。

その男は早速、
翌日に自分の部屋にカメラをセットし、
録画状態にしたまま、大学へと行った。

そして、
大学から帰って来た男は、
久しぶりに部屋に違和感を感じた。

これは、もしかしたら、
何か映っているかもと思い、
早速、録画しておいたカメラを止め、
確認することに。

最初の方は特に何も映っていなかった。

「なんだよ、俺の勘違いかな。」

そう安堵しかけたその時、
カメラから知らない女性が、
部屋に入ってくる映像が流れていた。

しかも、その手には包丁が。

あまりの恐怖に驚いた男は、
すぐさま友人に電話を掛け、

「マジで映ってた!やべー。」

と、若干興奮気味に友人に、
映像を見ながらその女の行動を逐一報告した。

ゴミ箱を焦ったり、
服の匂いを嗅いだり、

今まで感じていた部屋の違和感の正体に、
背筋が凍る思いにもなったが、

これで警察も動いてくれるはず。
そう思った男。

そして、
映像の中の女は、
部屋の押し入れに入って行った。

「こいつ、マジか。
押し入れの中まで漁っているのか。」

友人と電話をしながら、
中々出てこないな、などと言っていると、

映像の中で、
今度は、別の人物が、
部屋に入って来た。

その瞬間、男は声を詰まらせた。

なんと、
その映像に映っていたのは、
自分だった。

そして、
おもむろにカメラを手に取り、
録画を止めた自分。

そこでビデオは終わっていた。

【解説】

部屋に入って来た女が、
押し入れに入った後、

出て行くことなく、
自分が部屋に戻って来たということは…

その映像に映っていた女は、
まだ包丁を持ったまま、
部屋の押し入れに入っているということ。


恐怖の実話「悪夢バラバラの家族」

これはすべて実話です。

僕が中学3年生のころのこと。

私は、父母と小学校低学年の4人家族でした。

その日は大みそかで、
紅白歌合戦も終わり、良い初夢を願い寝ました。

しかし、

内容は覚えていないものの、
悪夢にうなされ、真夜中に起きてしまいました。

脈は激しく、脂汗が全身から吹き出し、
冷や水を背中から浴びせられたかのように硬直していました。

「新年早々、悪夢なんて最悪だ。」

喉が渇いたので、
冷蔵庫に行くためリビングを通ると、
なぜか僕以外の家族が全員抱き合い、
テレビの前に座っていました。

時刻はおそらく深夜2時過ぎ。

リビングのテレビはつけっぱなしです。

音が出ていないので、
無声でテレビが付いていました。

しかも、部屋の窓は全て開けっ放し。

部屋は凍えるように寒くなっています。

この異変を見て、
ゾッと寒気を感じずにはいられませんでした。

「何やってんだよ?頭おかしいだろ。」

恐怖を怒りで隠すかのように、
僕は怒鳴ってしまいました。

弟はなぜか泣き出してしまい、
両親は無表情で何もしゃべらず窓を閉め、
テレビを消しました。

泣いている弟に、

「もう寝なさい。」

と促し、寝室に連れて行きました。

新年早々、意味が分かりません。

気味が悪くて、
その後は寝られず、
朝まで漫画を読んでいました。

朝になり、

「昨日のアレ何?」

と、両親に尋ねると、

「は?」という返事。

昨夜の無表情と、
今の怪訝そうな顔の差が
あまりにも不可解で、
まるで怪談話でも聞いているかのような感覚でした。

それからしばらく経ってからのこと。
また、悪夢で真夜中に目が覚めました。

今度は微妙に内容を覚えていました。

見知らぬ人に、
僕が後頭部を殴られる夢でした。

起きた後も、
つむじの辺りがジンジンと痛みました。

そして、なぜか頭の中に

「コンビニは安全」

という、意味不明な言葉が浮かんできたのです。

「幽霊に襲われた。」

という考えも頭の中を駆け巡りました。

起きてリビングに行ってみると、
夕食が焼肉だったせいか、焦げた匂いがしました。

そして、
新年に起きた、
あの薄気味悪い思い出も、
脳裏をよぎりました。

そんなこともあり、
その日は、またもや眠れませんでした。

再び時は経ち、二月になりました。

そして、二月になると、
僕の体が異常に痒くなってきました。

乾燥肌だろうと、
気にしていなかったのですが、
背中と頭に焼けるような感覚が出てきて、
ガリガリとかきむしってしまいました。

その痒みは日に日に酷くなり、
皮膚科に行き、薬を貰いました。

そして、
その薬をお風呂上りに塗っていると、
弟が

「僕にも塗らせて」

と言ってきました。

弟に背中を向けると、
なぜか弟は

「バチーン」

と音が鳴るほどに、
僕の背中を強く叩きました。

「ふざけんな!」

そう僕が怒ると、
なぜか弟は声を出さずにも、
ポロポロと涙を流していたのです。

しかも、おかしなことに、
顔は色味を失ったかのように白黒映像。

表情もなく、涙を流していたのです。

「なんだこれ?気持ち悪いな。」

そう思いながら、
両親の顔を見ると、
両親もなぜか無表情でポロポロと涙を流していました。

そして、両親の口元を見ると、
パクパクと微妙に動いていました。

よく見ると、
何か言葉を発しているような。

でも、何を喋っているのか、
良く分からない。

と、次の瞬間。

見えている景色が全て真っ赤になり、
色褪せてセピア色になっていったのです。

そのまま僕の意識が遠くなる。

そこに見えたのは、
見覚えのある風景でした。

「ここはどこだ?いとこの家?」

そばには、深刻そうな顔の叔父が、
僕のことを覗いていました。

僕は全く事態が飲み込めずにいました。

周りにはどんどん人が集まっていて、
もうパニック状態。

すると、声が聞こえてきました。

「記憶がないなら、このままで良いのではないだろうか?」

そう祖父が言うと、叔父は、

「いいや、何があったのか話しておかんとならん。
まだ犯人も捕まっていないし、
近い内に警察の人が来るだろうし。」

そして、叔父から今回のことを聞かされました。

僕の家は、
1月1日に放火され、全焼したようでした。

その時僕は、たまたまコンビニに行っていたので、
助かったようでした。

でも、犯人の顔を見たとかで、
後頭部や全身を鈍器のようなもので、
めった打ちにされたとのことでした。

そして、今の今まで意識を失っていたのでした。
搬送先の病院で生死をさまよい、
叔父の家に引き取られたとこのこと。

もう3月になっていました。
2カ月もの間、記憶を失い、リハビリを続けていて、
やっと記憶が戻ったようでした。

全てを知った僕は、
ただただ泣くしかありませんでした。

今まで見ていた謎の夢が、
ジグソーパズルのようにつながっていきました。
背中の包帯を取った時に分かったのですが、

まだ、青あざが残る背中には、
弟の手のひらの形だけ、無傷でした。

事件から5年経った今も、犯人は捕まっていません。